#てつがくのドンカラス

それでは皆さん元気よく!不意打ち追い討ち?桜内!得意な技は?タイプ不一致!

中須かすみと未来ハーモニー

 ハーモニー。ギリシャ語の一致、連結を意味するハルモニアに由来する、調和を意味する言葉。

 

 そんな感じのテーマを掲げてはいるけれど、QU4RTZって虹ヶ咲4ユニットの中で一番異色で、ある意味で浮いているユニットだと思っている。

 

 

 ラブライブ!シリーズのライブの最終到達点って、言ってしまえばクオリティじゃなくてリアリティ。喉からCD音源を出せる事より、物語を歌に乗せて叩きつけてくるような、そういうものを見せたいコンテンツで。

 コンサートじゃなくてライブを見せたいとか、フィクションをリアルに再構成したいとか。

 

 よく「シンクロパフォーマンス」なんて言われるけど、キャラとキャストが同じ動きをしていることそのものより、それを通してキャラとキャストのこころがシンクロしてるとか、フィクションの中の世界や、その世界に生きる人たちの感覚と同じものを、リアルに生きる私たちに見せつけるとか、本質的な部分ってそっちだと思う。

 

 だから、何を歌うかよりも、それをどんな表情で、どんな声で、どんな想いを込めて歌うかが大事なんだと思っていて、これまでも、これからも、ラブライブ!シリーズがライブという表現に依存している限りそれは変わらない本質的な部分だと思う。

 

 

 だからこそ、QU4RTZはラブライブ!シリーズの中でもかなり異色だ。

 ラブライブ!シリーズを、元の音とキャストとが、いわば「破」「崩す」と言うなら、QU4RTZは「和」「合わせる」ユニットである。

 メンバーも、彼方、璃奈、エマの時点で3/4が喉からCD音源タイプ。

 

 聴き心地の良い音を追求し、違える事なく再現する事に重きを置くような、調和、ハーモニーなパフォーマンス。

 

 

 誤解を恐れずに言うなら、ライブをすると言うことにあまり意味がないパフォーマンスだ。確かにCD音源よりも生声の方がいいかもしれないけれど、それによって生まれるのは、結局はパワーアップ版のCD音源。

 クオリティを追求した反復練習の結果であるそのパフォーマンスに、曲そのものが内包するもの以上の想いや意味が込められているのか、ハンデというには重過ぎるほどに、その余地は少ないものだと思う。

 まあ、とはいえ『哀温ノ詩』のような、本当に強すぎるスーパーパワフルCD音源ゴリラとなると話は変わってくるのだが…。

 

 

 だが、そんなQU4RTZには、あと1人メンバーが残されている事を忘れてはならない。

 中須かすみ。彼女は3人とは違い喉からCD音源タイプではなく、「破」「崩す」事で表現するタイプ。

 CD音源よりもパワフルに歌ったり、逆に弱々しく歌ったりする事で、その曲の世界観や込められた想いを際立たせようとする、ライブ型のパフォーマンスをする。

 

 

 そんな彼女がいる事で、QU4RTZはラブライブ!のユニットになっているというか、コンサートではなくライブをするパフォーマーになる事ができているのだと思う。

 ハーモニーという、よくよく考えるとこれまでのラブライブ!シリーズの表現と相性の悪いものを軸にしながらも、それらを両立し、ラブライブ!シリーズのライブでありながら、ハーモニーを奏でる事ができる。

 

 

 それがなぜ可能になっているのか。それは、かすみのパフォーマンスにおける楽曲の崩し方が、QU4RTZのそれととても相性がよい(まあそういう計算でクリエイトされているのだろうが)からである。

 

 崩すタイプのパフォーマーの中でも、どう崩すかにはもちろん違いはある。

 例えば、せつ菜、栞子はそもそもライブの時の歌い方と収録の時の歌い方にだいぶ差があるだろう。彼女たちはCD音源はCD音源の表現をし、ライブの時はライブの表現をする。そんなタイプだろう。

 歩夢や愛、しずくは基本的にCD音源に忠実ではあるものの、それを歌い上げる雰囲気だとか表情だとか、そういう物で別物に変えてしまうタイプ。

 そして、果林とかすみ。この2人は、言うならば見せ場で崩すタイプである。基本的にはCD音源をなぞる形でのパフォーマンスを行うが、曲の中の大事な部分や、チャームポイントとなる部分で、大胆なアドリブを入れたり、強弱をより強くしたりして見せるタイプ。

 

 

 この、かすみの見せ場で崩すタイプの崩し方が、ハーモニーを軸にするQU4RTZと本当に相性がいい。

 まず、崩し方として、ソロパートで崩すという見せ方ができる。

 これが顕著なのは、『Beautiful Moonlight』の「会いたい 会いたい」や、『未来ハーモニー』の「出発!Ready go!」だろう。

 そこで感情を込めて崩したとしても、ソロパートだから浮かないし、ハーモニーを壊す事もない。これは単純だが、「らしい」演技としてそれができるのは果林とかすみだけである。

 

 

 そして、もうひとつ大事な事が、そもそもそのハーモニーが、かすみが崩した歌声を軸に構成されているという事だ。

 何が起きているかというと、かすみが3人を引っ張っているのである。

 QU4RTZのアコースティックバージョンとして披露された『未来ハーモニー』だったが、ハーモニーの中に彼女がいる時といない時で明らかに完成度に差があるのである。

 出だしから、歌声にQU4RTZ特有の優しさや暖かさが込められてはいるが、この時点では『未来ハーモニー』として完成していないのだ。明らかに、未来に向かうためのパワーや、希望を見出すような明るさ、朗らかさが足りていない。

 だが、ハーモニーに彼女が加わると、その瞬間、『未来ハーモニー』が完成した。かすみの明るさとパワーが、QU4RTZのハーモニーを『未来ハーモニー』に押し上げているのである。

 

 これは、既存のユニットライブやアコースティックバージョンでは見られなかった現象だ。Aqoursのユニットライブでも、誰かが加わるまで曲が完成しないなんて事はなかったし、Liella!の『始まりは君の空』も、出だしからその曲が『始まりは君の空』であり、それを歌い上げる事ができるのは世界であの5人しかいないのだという説得力に溢れていた。

 

 だが『未来ハーモニー』に関しては、かすみが引っ張る事で、ハーモニーは『未来ハーモニー』へと昇華していたのである。

 考えてみれば、『未来ハーモニー』はかすみのセンター曲だし、あのシングル自体が、かすみが他8人を下して勝ち取ったものだから当然ではある。『Music S.T.A.R.T!!』が真姫の曲で、『Hop? Stop? Nonstop!』が鞠莉の曲であるように、『未来ハーモニー』はかすみの曲なのだ。

 だからこそ、この曲はかすみが引っ張る曲になるのは当然なのだろうし、ラブライブ!という文脈の中でハーモニーを引っ張るかすみが所属しているから、QU4RTZはラブライブ!シリーズとしてハーモニーを奏でる事ができるのかもしれない。

 

 

 QU4RTZのライブを見て、かすみのパフォーマンスを見て、「かすみがQU4RTZを引っ張ってる」なんて、そんな事を思う日が来るなんて思ってなくて。

 未来ハーモニーがリリースされて、アニメだったり、2ndseasonだったり、新しい予感に導かれて色んな物語を経て、一年経って、また『未来ハーモニー』という虹色の橋に戻ってきて。

 「あなた」から生まれた「侑」もそうだけれど、いつのまにか彼女も本当に見違えるぐらい強くなったなあと思う。

 Diver Divaの時は、ライブという舞台が宮下愛の歌う「楽しい」という概念そのもので、愛の想う世界をそのまま見せつけられて、巻き込まれて、本当に楽しかった。

 QU4RTZのライブで見つけたのは、ハーモニーという調和の中で1人存在感を放ち続ける、中須かすみという無敵級*ビリーバー、虹ヶ咲のエース格の強さの真髄だっだと思う。

 

 『未来ハーモニー』のセンターが、歩夢でもせつ菜でもなくかすみである事の説得力、見せつけられたなあ。