#てつがくのドンカラス

それでは皆さん元気よく!不意打ち追い討ち?桜内!得意な技は?タイプ不一致!

『風』はAqoursの心がはばたいている証だ

海ははじまり。

いつでも見える。
うれしいときも、かなしいときも。

なにかをはじめる時、いつだってここだ。

 

ラブライブ!サンシャイン!! 5周年展示会-Pieces of Aqours-

 

迷いに揺れるこころ

それでも前を向いて

止まない雨はないと走ってきたよ

だからねサンシャイン

見上げれば熱い太陽

 

キセキヒカル

 

 

 ラブライブ!サンシャイン!!を語るうえで、海や太陽は欠かせない。

 

 タイトルにも掲げられる太陽は、シリーズを通して夢の象徴だ。。

 初代ラブライブ!の物語のクライマックスでは、主人公高坂穂乃果が太陽を掴むと同時に『SUNNY DAY SONG』が披露され、虹ヶ咲で『夢が僕らの太陽さ』と語られたように、追いかける目標として、そしてやがてやってくる明日を告げるものとして太陽は描かれ続けてきた。

 

 そして、海はラブライブ!サンシャイン!!の魂だ。

 三津浜から始まった彼女たちが、ラブライブの決勝で残したのは、彼女たちが生きた証である光の海と水を冠するその名前だった。

 先日開催されたAqoursぬまづフェスでも、梨子が「海は私たちに音を教えてくれて、砂浜は私たちの夢を受け止めてくれた」*1とコメントしていたり、そんな物語は『Sailing to the Sunshine』『Sailing to the Rainbow』と呼ばれたりするように、彼女たちと海と切っても切り離すことはできない。

 

 Aqoursの6thライブツアーは、そんな海と太陽がコンセプトだった。OCEAN STAGEでは、『Sailing to the Sunshine』と名付けられたアニメ1期を、SUNNY STAGEでは、輝きを見つけた2期『Journey to the Sunshine』を思わせるようなセットリストで構成されていた。

 そして、OCEAN、SUNNYから、WINDY STAGEと名付けられた追加公演へとバトンが繋がることとなった。

 

 

 今回は、WINDY STAG直前という事で、ラブライブ!サンシャイン!!という作品における「風」の表現について考えてみようと思う。

 

 

 

 風の描写は、ラブライブ!シリーズの中で頻出の描写ではあるが、共通点を探そうとすると意外と難しい。

 

 例えば、『未来の僕らは知ってるよ』では「光る風になろう We got dream」と、「Aqours=風」という図式の描写が為されている。しかし、『smile smile ship Start!』では「希望という名の帆を揚げて」とあるが、Aqoursが帆を揚げているという事は、帆が受ける風はAqoursではない事が分かる。

 

 また、風の吹く場面も様々である。例えば、『New winding road』の「海辺の風」、『Marine Border Parasol』や『待ってて愛のうた』の「潮風」、『Brightest Melody』の「サラサラ流れる風」のように、風といってもその性質は様々で、ひとつの要素に還元する事は難しいように思える。

 『JUMP up HIGH!!』では、「風は勇気 青い勇気」とのフレーズがあるが、では他の曲すべての歌詞が勇気に還元できるかといわれるとそうでもない。

 

 

 しかし、だからと言って、「風」に海や太陽のような象徴的な意味がないかと言われると、それにも疑問が残る。

 ラブライブ!という作品において、象徴的な場面で何度も登場し、何度もモチーフとして使用されてきた「風」が、何らかの重要な役割を担っていないはずがない。

 

普通な私の日常に 突然舞い降りた奇跡。

何かに夢中になりたくて。

何かに全力になりたくて。

脇目も振らずに走りたくて。

でも、なにをやっていいかわからなくて。

くすぶっていた私の全てを吹き飛ばし、舞い降りた。

それは、その輝きは…!

 

youtu.be

 

 「すべてを吹き飛ばし、舞い降りた」と語る千歌とμ’sとの出逢いは、風に導かれてのものだった。そしてまた同時に、この物語のはじまりは『桜色の風』である。

 

 また、他シリーズでもそれは同様だ。無印では、劇場版で穂乃果が答えを出したとき。虹ヶ咲では、歩夢とせつ菜のやり取りの時。スーパースター!!では恋が加入する時。

 他にも枚挙に暇がないほどに、大切なシーンではいつも「風」の描写が挿入されていた。

 最近だと、嵐珠や千砂都のように、名前に風に関係する字を冠するキャラクターが登場し、前者に至ってはスクスタの方で何度も「タイフーン」の比喩とセットでの登場となっている。

 

昨日とは違う

風が心を締め付けるけど(ずっと)

想いは繋がってるから

 

Awakening Promise

 

想いは風になって

明日を動かすんだ

いつも予想できない事が起こる

 

未来は風のように

 

 このように、「風」は何かひとつの象徴として還元する事は難しいように思えるが、しかし何にも還元されないものであるとは考え難い。

 

 

 

 

風は起きるもの、起こせるもの。

 ここで、視点を変えて風というものの性質について考えてみる。

 

 まず、「海」や「太陽」は物体であるが、「風」は現象である。

 海や太陽はそこに「ある」ものだが、「風がある」といった表現は存在しない。存在するのは「風が起こる」「風が吹く」と言った表現である。Windという名詞はBe動詞ではなくBlowという動詞とセットで使われる言葉である。

 つまり、「風」によって表現されるものは、何らかの行為、動作を伴うものだという事ができるだろう。

 

 

 

 そして、それは同時に人の力で起こす方ができるものである。

 私たちは、光の海は作れるにしても、太陽のような笑顔を見せることはできるとしても、海や太陽そのものを作り出すことはできない。

 しかし、その気になればいくらでも風を起こす事はできるだろう。

 

 手で扇げば風は起きる。なにかが動いていればそのエネルギーで風は起きる。

 

 動く何かによって生み出されたもの、それが風なのである。

 

ひらひらり空を舞う蝶のように

僅かでも風を起こして

やがて誰かの背中を押す日まで

 

決意の光

 

 

風を起こすのは

 そして、ラブライブ!シリーズの中には、そうした風に関する行為に密接に関係する象徴的な表現がある。

 「羽」である。

 

 羽は「何かをやらなくちゃ! なにかを始めたい!!」と思えたきっかけ*2である。

 そして、何かをやりたい、何かを始めたいと思ったとき、その羽の『はばたきのとき』。

 この世界にはいったい何が生まれるのだろう?

 

 先ほど、1期1話『輝きたい!』の冒頭を引用したが、そもそもそのシーンの風はどこから吹いていただろうか?

うぶ毛の小鳥たちもいつか空に羽ばたく

大きな強い翼で飛ぶ

 そう、夢を見て羽ばたいている人間の方から吹いていたのである。

 直前のシーンではモニターの方に風が吹いていたが、千歌がモニターを見上げる時に髪が後ろに靡いていることからも、風を起こしているのがμ'sであることが分かる。

 

 このように、「風」とは、誰かが夢を見ている時、夢に向かって羽ばたいている時に起こる現象であり、「風」が起こるという事は、それを起こす人と夢がそこにあるという事である。

 

「風」はこころが羽ばたいている証だ。

 『心の羽よ君へ飛んでけ!』という曲がある。

 私たちとAqoursが会えなかった時期にリリースされた曲で、私たちと共に駆け抜けた日々を慈しみながら羽を休める彼女たちの心情が吐露される曲だった。

 しかし、羽を休めていたとしても、羽は飛んでくるのである。風が吹かなければ羽が飛ぶ事なんてありえないのに?

 なぜだろうか?それは、羽を休めていても彼女たちが夢を見る事を辞めなかったからだ。休んでも止まらずに夢を見ていたからだ。

羽を休めながら夢見るのは

君との明日なんだよいつも

 彼女たちが羽を休めていても、羽ばたくことを辞めなかったから、心の羽は私たちの方へ飛んでくることができたのである。 

 心の羽が私たちの方へ飛んできたことは、彼女たちの心の羽がはばたき続けていた証だ。

 

 

 

『smile smile ship Start!』という曲がある。 

波よ歌え エブリバディ!

歌えば始まる 新しい船出も君がいるんだよ
歌えば風の中 ほら!ほら!

呼ばれてるんだよ 潮の香り 吸いこんでみた
希望と言う帆を揚げて smile smile ship Start!

 歌えば船出が始まり、風の中にいる。船が前に進めば、当然前から風を感じるはずだ。そして、前に進みながら歌うAqoursの歌とはどんな歌だっただろうか?

 『ユメ語るよりユメ歌おう』。彼女たちにとって歌とは、憧れを胸に夢を目指して走る「イマ」を生きる証である。そして、そんな歌を歌う時、彼女たちは「風の中」にいるのである。

 

 

『Thank you, FRIENDS!!』という曲がある。

海風に誘われて ココロには

波が立って立って どこへどこへ向かえばいいの?

みんなと探そうか!

 海はAqoursの魂であり、はじまりであるのと同時に、彼女たちを育てた場所でもある。海から吹いてくる風は、彼女たちの夢のはじまりから吹き続ける風だ。

 輝きたいと思った時、0を1にしたいと思った時、学校の名前を残したいと思った時。その夢はいつも、彼女たちを育てた景色や人々からもらったものだった。はじまりはμ’sから、悔しいと思った時は仲間から、学校の名前を残したいと思った時は学校から。

 彼女たちにとっての海風は、そうした夢を与えてくれた人たちであり、そんな人たちの心のはばたきである。

 

 

 

 このように、Aqoursにとっての「風」とは、彼女たちの心や、彼女たちを取り巻く人々の心がはばたいている事を裏付けるもの、「輝きと証」であると言える。

 

 

 

 

風は人の背中を押し、夢へと導いていく

 そして、はばたいている心は周りの世界を巻き込んでいくものでもある。

 飛行機が飛び立てば砂埃が舞い、水を蹴れば飛沫が上がるように、夢を追いかけてはばたいている心は、仮に自覚がなかったとしても周りの誰かに影響を与え、そしてまた誰かのこころがはばたき始めるきっかけとなっていく。

 

 風は心の羽がはばたいている証であると同時に、誰かの背中を押すエールだ。

 はばたく心は風を起こし、そしてその風に背中を押されて生まれた新しい夢は、また心のなかではばたき始める。

 
 風に乗った紙飛行機が最後に降りたったのは、Aqoursの名前と夢が残る砂浜だった。浦ノ星の屋上から舞い上がった羽と、函館から吹く風に乗って舞い上がった羽は、空を舞いながらサンシャイン‼︎の物語の色へと変わっていった。

 想いを届け繋げるためには、ただ羽があるだけでは足りない。その羽がはばたいて起こる風を知ることで、人は初めてそれが羽である事を知るのである。

 

 想いが繋がる時、ひとつになる時、結ばれる時。それは、ただ想いがそこになるだけでは成立しない。

 心がはばたいている証、「風」が吹くから、羽ばたく心は世界中に伝わっていくのである。

 

 

 

 



 

 

 

 

 

 私は、6/25、6/26に東京ドームで開催されるこのライブがWINDY STAGEと名付けられている理由は、ラブライブ!サンシャイン‼︎における「風」が、彼女たちの輝きと証であるからなのだと思う。

 彼女たちの心がこれまでずっとはばたき続けてきた結果として、「私たちの輝きと証」を探しにいく場所を手にしたということ。

 そして、彼女たちがそうして憧れの場所に立つということが、彼女たちと同じ日を生きる後輩たちの背中を押す事になるということ。

 

 誰かの背中を押す、「私たちの輝きと証」を見つけるために走ってきて、そして、彼女たちは輝きと証を見つけてなお今も走り続けているから。

 だからこそ、そんな輝きと証を象徴する場所は、WINDY STAGEと呼ばれるのだろう。

 

 

 

 かつてと同じように、風は私たちの輝きと証、心の羽がはばたくのをやめない証だ。彼女たちの輝きと証を手にするために、AqoursはWINDY STAGEに立つ。

 しかし、もしかしたら、そんな風の色はあの頃とは違うかもしれない。違う方向に吹いているのかもしれない。

 それでも、彼女たちの輝きと証だった風は世界を巡り、今も誰かの背中を押し続けている。

*1:うろ覚えなので、正確な文章ではない

*2:ラブライブ!サンシャイン!!TVアニメオフィシャルBOOK Sunshine!! P.93酒井和男監督インタビュー