空を飛ぶ事と、地面を走ること、歩くこと。
先へ進むことのモチーフとして挙げられる2つの行為は、ラブライブ!シリーズでは明確に描き分けがされている。
少なくとも、飛ぶという行為を孤独なまま成功させた人間はこの作品には1人も存在しない。*1
しないよね……?
例えば、歩夢の『Dream with You』では、
飛び立てる Dreaming Sky
一人じゃないから
どこまでも行ける気がするよ
空の向こう
歩き出そう Dreaming Way
未来へと続く
(中略)
あなたに届いてほしいよ
Beating my heart
と、歩いているときは「あなたに届いてほしい」、つまり「まだあなたに届いていない」のに対し、空の向こうに行ける気がするのは、「一人じゃないから」との対比が見てとることができる。
スクスタ25章『私のままで、もっと高く』、アニメ2期9話『The Sky I Can't Reach』でも、応援してくれる人の存在、隣にいる存在が果林やミアの再起のために必要となっていることが描かれ、他シリーズでも、『Aqours WAVE』に代表されるように、「飛ぶためには他者が必要」であることが描かれ続けている。
2期12話『エール』で、1話かけて「一人じゃない」ということを描いたのも、ある意味では、歩夢にラブライブ!作品の中で「飛んで」いい理由を与える意味もあったのだろう。
飛ぶのに対して他者が必要である理由として、飛ぶという行為が強烈に他者と影響を与え合う行為であることが考えられる。
花丸、栞子、マルガレーテのモチーフとして多用される蝶も、バタフライエフェクトを連想させるものとしての慣用的な表現であり、他者の影響(を受けて羽ばたく)ことと、自分の羽ばたきは誰かに影響を与える可能性があることを示唆している表現だと言える。*2
翼で羽ばたくためには莫大なエネルギーが必要となり、それは自分ひとりの力では成し遂げられないことであるとか、空を飛ぶためには乗るための風、つまり先に羽ばたいた人たちの影響が重要であるとか、羽ばたいて起こした風は誰かの背中を押すのだとか。
そういう行為であるから、1人では「飛べない」のだと言えそうである。
虹ヶ咲において、「空」は飛ぶ場所であると共に、もうひとつ、「伝える相手」という意味合いも含まれていると考えられる。*3
これは、虹ヶ咲が「届けること」を「響かせる」と表現するからだと考えられる。
伝えるべき相手に正直に気持ちを打ち明けた『MELODY』では、「強く願い込めた歌を あの空までほら届け!」と表現され、「スクールアイドルみんなに大好きだって伝えること」こそが自分のスクールアイドル活動であると気づいて作られた『L!L!L! (Love the Life We Live)』では、「どこまでも遠く 広がってく空」が「未知との出会いに 溢れてる世界」であり、そんな空で「もっともっと届けたい」という気持ちのままに「響く声パワーに」して時を刻んでいくのであるとあるように、空は音が響く場所であると同時に、その広さ故に未知の場所、つまり「不安」や「未知」という要素を含んでいると考えられる。
よって、「NEXT SKY」として描かれる空とは、「これから想いを響かせる場所」であるという形で読み解くことができるだろう。
さて、今回の作品では、三船栞子に焦点が当たっていたが、今まで以上に、栞子と侑が対比的に描かれていたと言っていい。
侑以上に歩夢との接点が多く描かれ、まるで彼女が主人公であるかのように、栞子を中心に物語が展開されていたと言えるだろう。
流石に栞子に電話した時はびっくりした。
「スクールアイドルに影響を受けた人間」であるアイラに共感し寄り添う人物は、同じくスクールアイドルに影響を受けた「あなた」の分身である侑であるというのが、これまでの構成を考えれば自然な流れだといえるが、今回はその役目は栞子が担っている。
バタフライエフェクトを想起させる蝶と言うモチーフで描かれ、他者に寄り添い支えるのが得意*4と言う性質を持つ栞子は、よく侑と対比されるキャラクターではあった。
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しかし、侑と栞子がアニメ2期で獲得したものが何であったのかを考えると、この「これから想いを響かせる場所」でなぜ栞子がフィーチャーされたのかが見えてくる。
侑が2期で獲得したのは、『TOKIMEKI Runnners』を始めとした「自分を表現する手段」であったのに対し、栞子は「大好きな気持ちにウソをつかないこと」、つまり、自分が「スクールアイドルに影響を受けた人間であること」を受け入れることであったと言える。
そして、これは蝶によって想起するバタフライエフェクトを考えるときに、それぞれ真逆のものであるといえる。
侑は前提として「スクールアイドルに影響を受けた人間」であった。つまり、他者の影響下にあることを既に受け入れている状態、「風に背中を押されている」状態であった。
逆に栞子は、大好きな気持ちに蓋をしていたため、「他者からの影響をなかったことにしていた」つまり、「風に背中を押されていない」状態であった。
また、ボランティアや文化祭実行委員をする人だった栞子は、最初から「自分を表現する手段」、つまり他者に影響を及ぼし得る存在であり、羽ばたいて風を起こせる人であったといえる。もちろん、侑はそれを獲得するのに21話もかかっている。
つまり、アニメ2期において、各キャラクターの成長として描かれたものは、侑は「羽ばたいて風を起こすこと」であり、栞子は「風に背中を押されること」であると言える。
実際、今回の『Go Our Way!』MV中の栞子の蝶は、羽ばたいているのではなく風を待つように止まっており、「影響を受ける側」としての表現と受け取るのが妥当だろう。
そう考えると、「これから想いを響かせる場所」、つまりこれから風に背中を押される人に「共感する」ことができるのは、侑よりも栞子のほうが適任であると言えるだろう。
また、今回焦点が当てられた栞子をスクスタと比較すると面白い点が分かる。
今回描かれたのは、栞子が自分がスクールアイドルから影響を受けた人間であることや、他者から見た自分の姿を”完全に”受け入れることであった。
そして、スクスタではそれが特に問題なく為されているのに対して、アニメではここまで時間がかかったのは、憧れたスクールアイドルが誰だったのかに起因するだろう。
今回、栞子が悩みを相談したのが歩夢だったように、栞子は歩夢の言うことは素直に受け入れる傾向がある。スクスタでは栞子の憧れが歩夢の『夢への一歩』だった*5が、アニメでは姉の薫子であった。
つまり、スクスタと比較して、アニメの栞子は自分がスクールアイドルに憧れ影響を受けていることや、そんな自分を好きでいてくれる周りの人たちを受け入れにくいのだと言える。
そして、その状態は現実の私たちの世界に少し近いものを感じる。
アニメ2期では、侑だけではないたくさんの「スクールアイドル」「あなた」の存在が描かれ、そして、現実世界のファンである私たちもその一員であるとして「次は、あなたの番!」とバトンを渡してきた。
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しかし、全員がそれを受け入れただろうか?まあ歩夢の幼馴染である私とは絶望的格差がある時点でそうは思えないのは当然ではあるが、そう思いきれない人や、そう思いたくない人も結構いたように感じる。
AqoursのNo.10の時も、Liella!が「私を叶える物語」したときも、「私の好きなラブライブ!に私はいない」と言って拒否していた人たちをたくさん見かけたが、「スクールアイドルとそれ以外」の毛色が強かったμ‘sがたまたまそうだっただけで、「みんなで叶える物語」であるラブライブ!シリーズそのものにそんなルールはなく、むしろ「私」がいてくれないと困る作品である。
だからこそ、今回「次は、あなたの番!」の続編として、栞子が他者からの愛を受け入れていく過程を描いたことは、非常に意義のあることだったと思う。
その過程も、アイラという「一人で飛ぼうとしていて」「飛べないと諦めていた」人に自分を重ね、そして、スクスタで栞子が歩夢に憧れた部分である、「やりたいことを大切な人と一緒にがんばる」ことを説く過程で、同時に自分もそれを受け入れていくというものになっており、構成の美しさを感じた。
歩夢に憧れたスクールアイドルに対して、IFの世界では歩夢の同じ部分に憧れた彼女だからこそ自分を重ねることができ、そして歩夢に憧れなければ獲得できなかったことを同時に獲得していく流れは、歩夢推しとして本当に嬉しかった。
そして、そんな栞子がDiver Cityの階段を上りステージに立つシーンも示唆的で鳥肌が立つほどだった。
まず、髪飾りを結びなおした栞子が、侑に似ているのである。
絵里や恋のように髪を後ろで縛るのであるが、後ろ髪だけを縛って横の毛はそのままなので、それがまるで侑のツインテールのように見えるのである。栞子の髪に若干緑がかかっているのもそれに拍車を掛けている。おそらく狙ってやっている。
これは先ほど述べた、「侑は影響を与える側」「栞子は影響を受ける側」として描かれている部分とリンクし、「スクールアイドルから風を受け、そしてその風に乗って羽ばたいて起こした風で誰かの背中を押す」という二人の共通点であり相違点である部分を強烈に意識させる描写であった。
また、その階段は侑、歩夢にとって始まりの場所であり、そして二人に大きな影響を与えたせつ菜が立っていた場所でもある。
そこに、「歩夢に憧れた人に自分を重ねながら」栞子が立つのである。
しかも、侑がピアノを弾くのに対して、栞子が先導した『Go Our Way!』のモチーフはDJ。そういえば小泉萌香はD4DJだったなとか、「音楽担当枠」にこんなアプローチがあるのかと純粋に関心してしまったのと同時に、音楽担当である侑のライバル枠はミアだと思っていたけど、栞子を完全に「高咲侑/あなた」のライバルとして描いているのだと思ったりした。
侑と栞子の対比描写は、こうした逆転的なものが多いが、今回はここまでやるのかというぐらいそれが色濃くて、とても面白かった。
そして何よりも、Diver Cityの階段でのライブを先導したのが、他でもない栞子であったことそのものが、これからの展開を一層期待させてくれるようなワクワクする出来事であった。
今回髪飾りを結び直して迷いの向こう側へ進んだ栞子は、応援してくれる人の存在、つまり「揺るぎないキズナ」の存在をアイラに説くこととなった。
それが今回の「次の舞台」「NEXT SKY」だったが、次の舞台に行った物語はどうなるのだろうか?
というか、その次の舞台、空ってどこだったのだろうか?
そう、ここからKAGAYAKI紡いでゆけ。