部長 : 黒鷺侑 (音楽科2年)
大部長: 鐘嵐珠 (普通科2年)
朝香果林 (ライフデザイン学科3年)
エマ・ヴェルデ (国際交流学科3年)
近江彼方 (ライフデザイン学科3年)
ミア・テイラー (音楽科3年)
中川菜々 (普通科2年)
宮下愛 (情報処理学科2年)
桜坂しずく (国際交流科1年)
天王寺璃奈 (情報処理学科1年)
三船栞子 (普通科1年)
- TOKIMEKI Runners
- みんなの練習メモ①
- スクールアイドルフェスティバル
- みんなの練習メモ②
- 第1回スクールアイドルエキシビジョン 校内オーディション
- みんなの練習メモ③
- 第1回スクールアイドルエキシビジョン PV
- お台場レインボーカーニバル
- みんなの練習メモ④
- そして最後のページには
TOKIMEKI Runners
μ‘sとAqoursの合同ライブを見てスクールアイドルを応援したいと思った私は、スクールアイドル同好会の戸を叩いた。この学校にもスクールアイドルがあるなら、応援したいと思ったんだ。でも、同好会は廃部寸前で、かすみちゃんひとりが辛うじて守っている状態だった。
そこから、私たちは部員を集めた。
あのライブを一緒に見た歩夢ちゃん。
演劇部で修業をしていたしずくちゃん。楽しいことと挑戦が大好きな愛ちゃんと、コミュニケーションが武器の璃奈ちゃん。
理系の愛と璃奈の加入で、学業と部活の両立ができるようになった彼方さん。
帰国から戻ってきたエマさん。
個人戦で刺激を与えあう場を求めていた果林さん。
そして、スクールアイドル同好会に戻ってきてくれたせつ菜ちゃん。
そして、同好会の在り方を模索し、ソロアイドルという答えに辿り着いた私たちは、大会でせつ菜ちゃんが優勝したことによって見事、スクールアイドルフェスティバルのメインステージに立つ権利を手に入れた。
そして、夢の舞台に立つことが決まったみんなの曲を作るために、私はスクールアイドルの歌が人のこころに響く理由を探ろうと思い、Aqoursとμ‘sに会いに行った。
そこで、私と同じく作曲に悩む梨子ちゃんと出逢った。沼津のサマーフェスティバルの運営を手伝いながら、彼女たちの輝きとは何なのかを知ろうと思った。
でも、分からなかった。私にはみんなが輝いているように見えたけど、千歌ちゃんは自分たちだけの輝きはまだ見つかっていないって言っていた。
だからこそ、それが見つかるまで走り続ける一途さと、そしてステージの上や本番だけじゃない場所でもそういう想いがたくさん積み上げられていく軌跡、曲を作ったり、歌詞を書いたり、お祭りのための準備をしたり、成功を祈ったり。Aqoursと、Aqoursを愛する人たちのその想いが、きっと輝いて見えるんだって、そう思った。
次に会いに行ったのはμ‘s。スクールアイドルのファンサイトのインタビュー企画に応募した私は、μ‘sの魅力の秘密が書かれた虎の巻の存在をする。しかし、そんな簡単に見せることはできないものだからこそ、私たち虹ヶ咲とμ‘sの9番勝負が始まった。勝負の結果は、4勝4敗1分けで、延長戦の私と真姫ちゃんの作曲勝負に持ち込まれた。
しかし、勝負にすらならなかった。私は、ピアノを弾くことすらできずに負けてしまった。
真姫ちゃんが演奏するだけで、それを歌っているμ‘sの姿が鮮明に浮かんできて、その姿が私の胸の中で強烈に訴えかけてくるのに、技術とデータだけを詰め込んだ私の曲には、虹ヶ咲のみんなの姿なんて全然浮かんでこなくて。
だから、気づいたんだ。「曲はいつも、どんなときも、全員のためにある」。だから、真姫ちゃんの曲も梨子ちゃんの曲も、胸に響いてくるんだ。輝いてるんだ。
でも、それに気づくことができたから、私は、やっと「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」の曲を作ることができた。私にとって、トキメキや輝きは、虹ヶ咲のみんなが歌っている姿だったんだから。
みんなは、今この瞬間もスクールアイドルフェスティバルにむけてレベルアップしてる。私も、みんなに追いつきたい。そう思って出来たのが、私たち「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」の始まりの曲、『TOKIMEKI Runners』だった。
ちょうどその時、オリンピックの影響でスクールアイドルフェスティバル中止のお知らせが来た。でも、この曲をお蔵入りなんかにさせたりしない。そう思って、講堂で急遽行ったライブで、この曲を披露した。
『TOKIMEKI Runners』を見て火が付いたμ‘sとAqoursもライブに乱入し、3校合同のステージが実現すると、私は思った。
このステージを、こんな狭い場所で私たちしか見てないなんてもったいない。中止になったけど、でも私はスクールアイドルフェスティバルのステージに立つみんなが見たいんだって。
Aqoursのみんなが、輝きは動いてないと探せないって言っていたように、何ができるか分からないけど、もしかしたら行動したら未来が変わるかもしれない。
だから、みんなでスクールアイドルフェスティバルのメインステージに立つことを、私はあきらめたくないって、そう思った。
スクールアイドルフェスティバルを諦めたくない私たちは、前任の運営である薫子さんにコンタクトを取った。実行委員が卒業となり、オリンピックの影響で会場が使えなくなったことで中止が決定したと聞き、私たちはその運営を引き継ぐことにした。
私たちだけじゃなくて、μ‘sも、Aqoursもいてくれる。こんなに心強いことはない。
そんな時に、生徒会長の菜々ちゃんに挑戦状を突き付けてくる人が現れた。1年生の三船栞子さんだ。三船さんは理論的で、そして正しい。効率よくステップアップできる環境を整備するために生徒会長選挙に臨む三船さんに対し、菜々ちゃんは好きなことに全力で打ち込める環境を重視して対峙する。
「適性」を重視する三船さんと、「大好きな気持ち」を重視する菜々ちゃん。しかし、理念としては対等でも、それぞれの理念を主張する人間としては三船さんに軍配が上がった。
三船さんのやりたいことは、「他の人のサポートをすること」だから、生徒会長の適性も「大好きな気持ち」も持ち合わせている。
しかし、菜々ちゃんの本当にやりたいことは生徒会なのかと言われると、菜々ちゃんは答えに詰まってしまった。生徒会を大事に思う気持ちがあるとはいえ、元々はスクールアイドルをするために用意した両親からの隠れ蓑だったから。
そんな菜々ちゃんが「大好きな気持ち」を邪魔されない環境を作りたいと唱えたところで、その活動自体が、自分自身の大好きな気持ちを押し殺して行うものだから。
そして、その肝心のスクールアイドル活動も、菜々ちゃんの生徒会選挙を応援する中でおろそかになってしまった。スクールアイドルフェスティバルに向けての活動を後回しにしながら、菜々ちゃんの選挙を応援していることも、もしかしたら三船さんに言わせれば「煽動する人間がその理念に反している」状況なのかもしれない。
私、悔しかったんだ。菜々ちゃんが辛いときに、一番近くにいてあげられない自分に腹が立つ。こんなことになるなら、菜々ちゃんがひとりで追い詰められるぐらいなら、無理やりにでも着いていけばよかった。拒絶されても側にいればよかった。
それ以上に、どうして気づいてあげられなかったんだろう?
どうして力になってあげられなかったんだろう?
私のほうが菜々ちゃんといた時間は長かったはずなのに、どうして菜々ちゃんの在り方が矛盾していることに気がついてあげられなかった?
どうして菜々ちゃんが”本当の意味で”「大好きな気持ちを大切に」できるための力になれなかった?
もし私が気付いてあげられたのなら。私が何か力になれていたのなら。三船さんは、菜々ちゃんを認めていたのかな。菜々ちゃんが傷つくことはなかったのかな。
三船さんはすごいよ。私でも気づかなかったことを簡単に見抜いて、指摘できて。そして、生徒会長を勝ち取って。
私よりも……三船さんの方が向いているのかな。同好会の部長って。
みんなの練習メモ①
歩夢ちゃんは、最初どんなスクールアイドルを目指せばいいのか分からなくて戸惑っていたみたい。でも、ファンクラブができて、歩夢ちゃんを応援してくれる人たちがいる事を知って、そんななかで、ファンひとりひとりに寄り添って一緒に成長していきたいっていう目標を見つけた。ひとりひとりにお手紙を返す姿をみて、少し妬いた。歩夢ちゃんの初めてのは私なんだから。本番の前に私のためだけに歌う姿は、いつもよりとても可愛く見えた。
かすみちゃんは、こう見えて心配性だ。センター投票では4位で、ファンクラブに人が入ってくるか不安になって。ステージの上では考えられないぐらいネガティブな子だ。でも、少なくとも、部長である私は絶対かすみちゃんの味方なんだって、そう思ってくれたら嬉しい。
しずくちゃんは、演技に悩んでいた。理想のスクールアイドルを目指しているけど、その光が掴めなくて悩んでいた。でも、μ‘sやAqoursとの交流の中で、ひとつの光を掴んだみたい。演技は見た目や仕草を真似るものじゃない。その人のこころを演じることなんだ。舞台の上でその人として生きることなんだ。そう語るしずくちゃんの目は、きっと未来の大女優と同じ目だったと思う。
モデルとして活動している果林さんは、他の人のニーズに答えるのが得意だ。でも、私は果林さんを自分の好きなようにしたいんじゃない。果林さんが好きなようにやっているのを見たいんだ。それがきっと、「楽しむ」って事だから。だから、果林さんの本音を引き出せるように、もう少し頼れる人になりたい。
愛さんの友達の輪が広い理由は、その言葉がまっすぐだからだと思う。愛さんの頭がいいのもあると思うんだけど、気持ちがどかーんと伝わってくる気がするんだ。分かりやすいと言うか、表現が的確と言うか。なんだろうね?だからこそ、作詞をお願いしてみた。正直な気持ちは歌にすれば、きっともっともっと広がっていくはずだから。
彼方さんは良くも悪くも献身的だ。でも、そんな彼方さん自身も、みんなから愛されているんだってことは、もしかしたら本人はあんまり意識してないのかも。でもだからこそ、自分のことよりも他の人のことを優先して自分の気持ちを押し殺してるんじゃないかって、心配になることもある。だからこそ、遥さんも、私も、みんなも、彼方さんが自分のやりたいことを自由にできるように、わがままだって叶えてあげられるように、そうやって支え合っていくことが大事なんだ。
せつ菜さんって、すごいんだ。ステージの上では、せつ菜ちゃんの「大好き」って気持ちがまっすぐに伝わってきて。愛情と情熱でくらくらしそうになるぐらい圧倒されて。でも、そんな気持ちをまだせつ菜ちゃんはご両親に伝えていなかった。分かってくれないものだと諦めて、ずっと本当の自分を隠し続けていた。だけど、伝わったんだと思う。伝えるための歌と、ありったけの想いがあれば、きっと少しずつだったとしても、その想いはご両親の中で何かを変えてくれるはず。いつかせつ菜ちゃんの野望が叶うその日まで、私はずっとあなたの味方だよ。
エマさんと「癒し」って何だろうって考えていた。気持ちが落ち着くこと、ホッとすること。そういう、癒されることの辞書的な意味はなんとなく掴むことができた。そんな時に、日曜保育のボランティア活動で、ひとりぼっちの男の子と出会って、分かったんだ。本当に癒されること、安心すること、力が湧いてくることって、ひとりじゃないんだって思えることなんだ。ひとりじゃない、みんながいるよって思えること、そして、その仲間に入っていいんだって思えること。それが、癒すってことなんだ。人と人の温もりが繋がることこそが、安心するってことなんだ。だからエマさんの胸のなかは眠くなっちゃうぐらいあったかいんだ。
璃奈ちゃんは、ボードを獲得してから人と繋がれるようになった。たくさん人と気持ちを通わせられるようになった。そんな中で、璃奈ちゃんはボードを外してステージに立つことを決めた。ボードから卒業するんじゃなくて、相棒であるボードの下の自分の気持ちも知ってもらいたいから。いくら顔が笑顔でも、そこに気持ちがなければそれは偽物。でも、いくらぎこちなくても、そこに気持ちがあるなら、その笑顔は本物の笑顔だから。そして、璃奈ちゃんを見ている私たちの笑顔は、きっと璃奈ちゃんのこころの鏡になるはずだから。
スクールアイドルフェスティバル
「集え! みんなの夢!」
スクールアイドルフェスティバルのスローガンが決まったところで、そのPVに梨子ちゃんが名乗りを上げる。
スクールアイドルフェスティバルを通して梨子ちゃんの叶えたい夢は、「夢を諦めないためのエールを届けること」。
梨子ちゃんはかつて夢に躓いて逃げ出したとき、千歌ちゃんと曜ちゃんに支えてもらったことがあったらしい。そうやって支えられて今ここに立っているからこそ、同じように誰かの支えになりたい。夢を諦めようとしている誰かがもう一度立ち上がれるようにエールを送りたい。そんな想いが込められた『Wake up, Challenger!!』は、大きな反響を呼び、同時に同好会の中にも影響を与えていったようだ。
「私も誰かの支えになりたい」と語る梨子ちゃんの隣で、「いつも支えてくれる人が喜んでくれる顔が見たいから」と語る歩夢ちゃんが、すこし重なって見えた気がした。
そのころ、生徒会では学校説明会にむけての計画がなかなか上手くいっていない。新入生の適性に合わせた部活選択を主張する栞子ちゃんと、自由意思を尊重する部長会では意見が合わない。でも、学校説明会での部活紹介がなければ私たちも困る。だから、私たちは栞子ちゃんに協力することにした。
問題は、栞子ちゃんが、部長さんたちがどうして「やりたい気持ち」を尊重したいのかよく分かっていないことだ。だから話が纏まらない。「無駄なことをやる意味が分からない。」と言っているように、そもそも価値基準が違うから理解しようにも話にならない。
だから、栞子ちゃんにはスクールアイドルを体験してもらうことにした。栞子ちゃんが無駄だと思っているものの中に、きっと栞子ちゃんに必要なものがあるから。その代わり、私は栞子ちゃんに代わって各部との個別の調整を手伝うこととなった。
同時に学校説明会に出ることとなった歩夢ちゃんに集中しての練習が始まる。
調整を重ねて、そしてスクールアイドルを体験した栞子ちゃんも、無駄だと思っていたものの中にも大切なものがあるのかもしれないと気づき始めて、そうして上手いこと「適性に基づいた提案」と「やりたい気持ちを尊重する」やり方が共存する形での部活紹介をするという形で纏まった。
そして迎えた部活紹介は大成功。歩夢ちゃんの『夢への一歩』は、過去最高の仕上がりだった。
そして、私は気づく。オリンピックの影響でずっと困っていたスクールアイドルフェスティバルの会場。虹ヶ咲の学園祭としてやればいいんだって。
早速栞子ちゃんに提案したら、却下。スクールアイドル同好会だけでこの学校を占拠している間、他の部活はどうするんだと。それならばと私はほかの部活や同好会に協力を要請する。「虹ヶ咲学園お昼休み放送室」とヘリコプターで乗り付けて来た鞠莉さんで知名度を上げつつ、設備や装飾、屋台などで参加することで部活動として協力していくことで、スクールアイドル同好会だけじゃない、学校全体での学園祭としてプランを再構築。
全部活と、生徒の九割の賛同、そして、具体的な運営計画を詰め切ったうえでもう一度栞子ちゃんに提案しに行った。
するとこの案に対しては、栞子ちゃんは熱意に対する理解は示すものの、ボランティアの1000人を期日までに集めきることを条件とする。失敗する計画にゴーサインは出せない、とのことだ。
1000人なんて簡単だと思っていた。今のみんなの熱意があれば、簡単に集まるし、開催に際して困ることなんてない。
そう、思ってた。
でも、みんながみんなそうじゃないんだ。確かに、スクールアイドルフェスティバルには賛同してくれた。でも、「ボランティアやるよ」って言ってくれたにしても、本当にやってくれる人なんて、ほんの一握りしかいないんだ。
署名の時点では余裕で1000人以上いたボランティアも、実際に説明会に来てくれたのはたった100人ぐらい。
人を集めたはいいけど、それがどんな人なのか全然意識が行ってなくて、その人たちに働きかけるようなことなんて何もしてなくて。
ただ夢を語るだけで、その夢を叶えるためになにをしなければいけないのか、全然知られていなかったんだ。
だから、私は連絡をくれなかった人たちひとりひとりに連絡を取って、メールを送って、電話をして、会いに行って、なんとか説得しようとしていたんだけど……。
その間全然同好会に顔を出せなくて。一番近くで応援するって言ったのに、全然練習を見てあげられなくて。そして、心配してくれた歩夢ちゃんのことを、忙しいって振り払って、酷いことを言ってしまって。
せっかくプレゼントまで用意してくれていたのに、せっかくメッセージまで書いてくれたのに。
ずっと隣にいるって約束したのに、私はそんな歩夢ちゃんを裏切ってしまったんだ。
スクールアイドルフェスティバルのことばかり考えて、自分ひとりで解決しなきゃって意地を張って、歩夢ちゃんの想いも、同好会のみんなの想いも、全部全部私が踏みにじってしまったんだ。
振り返れば、きっと、必死に呼び戻そうとしたのが間違いだったんだと思う。楽しいことをしたくて、その気持ちを広げたくて始めたはずだったのに、私はそんな当初の目標なんて忘れて、ただスクールアイドルフェスティバルを成功させることだけを考えていて。
なんのために頑張るのかを忘れていなければ、もう少しちゃんと気持ちは伝わったはずなのに。もう少しちゃんと、同好会のみんなと一緒にいられたはずだったのに。
気づいたときにはもう遅くて。期日ギリギリでもまだ600人ぐらいしか集まっていなくて、歩夢ちゃんも学校に来なくなってしまって。
もうダメだって、みんなが諦めて、虹ヶ咲以外でスクールアイドルフェスティバルなんて開催できるのかな、どうしたらいいのかなって、半ば意気消沈しながら、現実から目を逸らそうとしていたとき。
歩夢ちゃんのメッセージが、世界中に配信され始めたんだ。
スクールアイドルとして頑張ってきた日々のこと。
スクールアイドルフェスティバル実現に向けて頑張っている人たちのこと。
夢に向かって頑張ることが楽しいと思い始めていること。
そして、幼馴染である私のこと。
私と一緒にスクールアイドル活動を始めて、毎日が楽しくなって。
できないことができるようになるたび私が喜んで、そんな私と一緒に成長していくのが嬉しいってこと。
そして、隣にいる私の夢が、いつか歩夢ちゃんの叶えたい夢になっていたこと。
楽しいに決まっている、と歩夢ちゃんは言った。だってそれは、私が夢中になっている夢だから。私が頑張って叶えたい夢だから。
だから、これは歩夢ちゃんの夢なんだ、みんなで一緒に叶えたい歩夢ちゃんの夢なんだって、みんなに訴えていた。
歩夢ちゃんの夢を一緒に叶えて、そして歩夢ちゃんがみんなの夢を一緒に叶えるんだって、そうやってお願いしていた。
家から学校までを駆ける時間も、放送は続いていた。
その間にも、私と歩夢の夢と、私と歩夢のこれまでがずっとずっと語られ続けていて。
自分でも気づかなかったぐらい、私はスクールアイドル活動が好きだったんだ。義務とか指名とかじゃなくて、本当に楽しかったから始めたんだっていうのを思い知らされて。
なんで気づかなかったんだろう?どうして忘れてたんだろう?
好きだから始めたことも、新しいことが始まった時のトキメキも、全部私にとって大切なものだったのに。それが大切だったからこそ、スクールアイドルフェスティバルをやりたいって思ったのに。そんな想いを分かち合えるみんなと一緒だからこそ、叶えたい夢だったのに。
学校に辿り着いて、久しぶりに歩夢ちゃんに会って。
伝えたかったのは、精いっぱいのごめんねと、ありがとう。
みんなの気持ちも全然見えてなくて、私を想ってくれる声まで無視してしまって。死ぬほど後悔したから。歩夢ちゃんがいないと、私は何をやっても楽しくないんだよって、失いたくない、一緒にいて欲しいんだって伝えて。
仲直りできて、本当によかったし、あの時喧嘩したことは、これからの人生で絶対に忘れない。
……これも全世界に配信されていたんだけどね。
ちなみにこの配信は、栞子ちゃんが歩夢ちゃんの背中を押して、全面的に協力してくれて実現したものだったみたい。後で栞子ちゃんにきつく釘を刺された。また同じようなことが起きたらその時は……。大丈夫。二度とこんなことは起こさないから。
歩夢ちゃんの配信でのまっすぐな言葉と、最後に歌った『夢への一歩』の反響は大きかったみたいで。
その時点で600人ぐらいはボランティアがいたけれど、そこから協力してくれる人が爆発的に増えていって。
果てしない道でも一歩一歩 諦めなければ夢は逃げない。
この手はついに、みんなの夢が集う場所に届いたんだ。
そして、ついに私たちは、虹ヶ咲でのスクールアイドルフェスティバルを実現した。
スクールアイドルだけじゃなくて、その場にいるいろんな人たちが楽しいことを実現するために考えて協力してくれる。そんな場を作れたことが本当に嬉しかった。
そして、閉会式の後も鳴りやまないアンコールの舞台に立ったのは、μ‘sと、Aqoursと、そして……栞子ちゃんを加えて10人になった大好きな人たち。虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のスクールアイドル。
自分の中にある大好きなものと、大好きなことをやりたいと思う気持ち。そんな夢を信じる気持ちがあれば、夢を諦めずに追いかけ続ければ、きっといつかその想いは応えてくれる。
そんな強い願いが、きっと私たちをあの場所に導いてくれたと思うから。
あの日の景色は今もずっと、私の胸の中で輝き続けている。
みんなの練習メモ②
スクールアイドルフェスティバルの一件や、ファンクラブの人が増えてきたこともあり、歩夢ちゃんはだいぶ自信がついてきたと思う。最初は愛ちゃんやせつ菜ちゃんに引っ張られる側だったのに、最近のライブではみんなを引っ張ることが多くなってきた。
自分が自分のことをどう思っていたとしても、応援してくれる人は自分のことを好きだと言ってくれる。だからこそ、そんな自分のことをもっと好きになりたいという気持ちを込めて作詞に挑戦。そんな、他の人からみた自分を受け入れることで自分を好きになっていった歩夢ちゃんは、一段と強い子になっていったみたいだ。
留学中に配信でライブを見たけど、しばらく見ていないと見違えるぐらいに横顔が頼もしくなってきた。自信がつくと同時に、歌もダンスも上手くなってきてる。私も頑張らないと。
かすみちゃんは、たまに建前と本音が分からなくなる時がある。それがかすみちゃんの魅力でもあると思うんだけど、ファンクラブの人数が伸び悩んでいるのを気にしているのは流石に見ていれば分かる。それでも、自分の弱いところも見せ場に変えようと、あえて泣き顔を見せてみるのも、かすみちゃんの強さだとも思うけど、果たしてどこまでが強さと受け取っていいのか私も掴みかねている。
本当に泣きたくなった時には側にいてあげたいけれど、きっとかすみちゃんは私にはそんな顔は見せようとはしないんだろう。
しずくちゃんは、スクールアイドルとして何がしたいのかの方向性が完全に見えてきたようだ。演じることで人生を重ねる。出逢ったすべての人の人生を生きる。それが、舞台の上でしずくちゃんがやりたいこと。
そんなしずくちゃんの物語のはじまりは、私なんだって。少し照れるけど、嬉しいな。こんな清爽で可愛い後輩の特別になれているんだと思うと……。
果林さんは、だいぶ私に心を開いてくれた。一度グループでの温度差から苦い思いをした果林さんは本音を隠すようになっていたけれど、私になら本気をぶつけられる。私となら、「ほどほど」じゃなくて、心のむくままに熱く燃え上がることができる。
そんな情熱を隠さなくてよくなった果林さんは、今までよりも活き活きしていると思う。
愛ちゃんは、その人柄のおかげで人脈が広い。そして、愛ちゃん自身も、その人たちを大切にしていて。だから、歌声が届かない人がいるなら、動かずにはいられないようだ。楽しいと言う気持ちがエネルギーになるなら、ライブに来れない人、病院で病気と闘っている人にも楽しさが届けばいい。
そうやっていろんなところに手を伸ばせる愛ちゃんはやっぱり天才なんだと思う。
眠っている時に見る夢の世界は、突拍子もない世界かもしれない。でも、それを現実にできたなら、文字通り「夢を叶える」ことになるのだろう。
そして、そんな場所を自分にとって自由になれる遊び場だと語り、夢の世界として楽しむ姿は、きっと彼方さんを愛する人みんなが求めていたものだったんだと思う。今の彼方さんは、やりたいことをできている。それが、とても幸せなんだ。
栞子ちゃんとの一件や、新しい試みを通して分かったことがある。せつ菜ちゃんはかなり不器用だ。ひとつのことにしか集中できないし、すべての人に救いの手を差し伸べられるほどすごい人じゃない。ただ大きな声で大好きを叫ぶ事しかできない。そういう人なんだ。でもそれこそが、せつ菜ちゃんがせつ菜ちゃんらしくいられる事なんだと思う。
本当は、これも私が気付いてあげるべきことで、また栞子ちゃんに頼ることになっちゃった。でも確かに、私はみんなと向き合って演説しているせつ菜ちゃんよりも、みんなの先頭で大好きを叫んでいるせつ菜ちゃんの方が好きだ。
エマさんにとって憧れのスクールアイドルの憧れの曲。偶然の出逢いから、エマさんは、先輩からその曲を引き継いだ夏川マイさんから、『哀温ノ詩』を引き継ぐこととなった。
人と人との繋がりこそが癒しなのだという答えに辿り着いたエマさんだからこそ、この音楽とスクールアイドルが繋いだ想いの連鎖の先で、バトンを受け取ることができたのだろう。あのステージはすごかった。だってそこには、その場にいない人の想いも見えない力で繋がっていたから。
会えないと寂しいのは、痛いぐらいに分かる。私だって、歩夢と喧嘩した時は寂しかった。留学中も、たまに寂しさで胸が張り裂けそうになった。でも、隣にいないからって一人じゃないことを、璃奈ちゃんは教えてくれた。
璃奈ちゃんはコミュニケーションにコンプレックスを持っているけど、誰よりもコミュニケーションのために頑張っている子でもある。離れていてもオンラインで繋がれる。離れていても、会える。璃奈ちゃんの武器はボードだけじゃない。繋がるための武器を、だれよりもたくさん持っているんだ。
栞子ちゃんは私に似ている。夢を追いかけてる人を応援したいと言う想いも、それぞれの夢に寄り添おうとする生き方も、私とそっくりだ。
だからこそ、気持ちも願いも分かるんだ。きっといつか、私たちの頑張った証が、誰かの背中を押しますように。それがきっと私たちにとって、輝くってことだから。
第1回スクールアイドルエキシビジョン 校内オーディション
2ヵ月の短期留学から帰ってきたら、同好会が分裂していた。
スクールアイドルフェスティバルを見て香港からやってきたショウ・ランジュさんが、新しくスクールアイドル部を設立。しかし、旧来の同好会の大半のメンバーが部に加入せず「同好会」を主張したため、虹ヶ咲には「部」と「同好会」が両立する歪んだ状態となり、そして「同好会」側に所属している人間は実質的な活動停止、と。
そんな状態で許可なく活動しているものだから、同好会は監視委員会の目をかいくぐりながら活動していて。
単純なスキルアップを目的として、最高の環境を整え、競合しながら1つの完成されたパフォーマンスを目指す部の理念に、果林さん、愛ちゃん、栞子ちゃんは特に問題なく賛同できたけど、やりたいことが自由にできない環境に反感を持ったかすみちゃん、エマさんは徹底抗戦。バチバチしていて大変だ。
部の理念は、最高の環境で原石を磨き上げること。だから、作曲担当として私はいらないらしい。なるほど、どうして歩夢ちゃんが部に行ってないんだろうって思っていたけど、理由が分かった。
その後もいろいろとあった。
本当に同好会でいいのか、部に行ってできることもあるんじゃないかっていうお話をした。実際、しずくちゃんは一時的に部の方に移籍もしたし、部と同好会が共存できる状態になったときには、トーナメントで対抗戦をしたりした。
そんな時に、スクールアイドルフェスティバルのOGであり、栞子ちゃんの姉である三船薫子さんが教育実習生として虹ヶ咲にやってきた。薫子さんは、新しいスクールアイドルのイベントとして、学校ごとのスクールアイドルのPVをお披露目しあう「スクールアイドルエキシビジョン」を企画していた。
参加条件は、校内オーディションで選ばれること。個人でも、グループでもいいから、「学校代表」であること。
そして同時に、イベント参加にあたって、同好会と部でお互いをもっと深くするための合同合宿に行きなさいとも言われた。というか、半ば強引に行かされた。
そこでは、愛ちゃんと果林ちゃんが代表を勝ち取るためにタッグを組んで『DiverDiva』を結成し、それに対抗するように『QU4RTZ4』、『A・ZU・NA』と3ユニットが生まれる。
それを追いかけるように、同好会との和解を果たしたランジュさんがミアちゃん、栞子ちゃんと組んだ『R3BIRTH』も結成。
スクールアイドル部は解散し、果林さん、愛ちゃん、栞子ちゃんが戻ってきて、そして新しい仲間であるミアちゃん、ランジュちゃんを加えて13人になった。
そんな新生スクールアイドル同好会を見ていて、ふと頭をよぎる言葉がある。
「……ねえ、アナタはステージに立たないの?
それだけスクールアイドルが好きなのに」
昔、にこさんやダイヤさんにも同じことを聞かれた。その時は自信を持って、「スクールアイドルが大好きだから」「1番近くで応援することが私のやりたいこと」なんだって言えたけど……。
私の目の前で、スクールアイドルに憧れて、スクールアイドルになろうと思って舞台に立っている人が3人もいる。これが……当たり前なのかな。
好きなことだからやりたいこと。
それは、スクールアイドルが好きなら誰でもそうなのかもしれない。
応援するだけで、いいのかな?
私もステージに立つべきなのかな?
でも、ステージに立つ私は、いったいどんな気持ちを届けたらいいんだろう?
私って、本当にスクールアイドルが好きなのかな?
私にとって、スクールアイドルって、何なんだろう……
そんな話をしたら、歩夢ちゃんは『夢への一歩』のことを話してくれた。
『夢への一歩』は最初の一歩なんだって。歩夢ちゃんだけじゃなくて、私のスクールアイドル活動の。スクールアイドルはひとりじゃスクールアイドルになれないけど、ひとりでも応援してくれる人がいれば誰だってスクールアイドルになれる。
だから、歩夢ちゃんと一緒に頑張って、一緒に練習をして、歩夢ちゃんのために曲を作って……そうしてきたすべてが歩夢ちゃんにとっては、私のスクールアイドル活動だったんだって。
これでよかったんだって、そう思った。スクールアイドルとして、ステージに立つ人たちの中で気持ちが揺れて、ちょっとだけ迷ってしまったけど、それでも、分かったんだ。
大切なのは、「スクールアイドルが大好きだから」「スクールアイドルをやる」ってことじゃない。「大好きなものがあるから」「大好きなことをする」ことが大切なんだ。例えどんな方法であったとしても、好きな気持ちは人それぞれだから、それぞれにスクールアイドル活動があるんだ。
だって、「やりたいからやる」のが、スクールアイドル活動だから!
今の私のやりたいこと、今の私のスクールアイドル活動は、スクールアイドル同好会のみんなに大好きって伝えること。同好会のみんながやりたいことができるような、「スクールアイドル活動」のお手伝いをすること!!!!
私だけじゃない。この学校にいるみんなが、それぞれ自分のやりたい気持ちに正直に、大好きなことを頑張っている。
だから、決めたんだ。虹ヶ咲の代表として、スクールアイドルエキシビジョンに出場するスクールアイドルは、全員。同好会だけじゃない。スクールアイドルエキシビジョンに参加したいと思った、それぞれの形でスクールアイドルを楽しんでいる全員。
自分の大好きなことを頑張って、大好きなことを分かち合って生きている。そうやって頑張ることが、大好きなものを大好きだと思う気持ちが大好きであること。
それこそが、「スクールアイドル活動」なんだ。
大切なのは、それがどんな形で外に出ているかじゃない。どんな形でかかわっているかじゃない。
それが「大好きか」どうかなんだ。「楽しんで」いるかどうかなんだ。そしてそれをみんなと分かち合えているかなんだ。
だから、校内オーディションの答えは、私のスクールアイドル活動は、
『Love the Life We Live』
私は、私たち「スクールアイドル」は今が大好きで、そして今が最高に楽しい!
みんなの練習メモ③
「わがままでいること」。言い換えるなら、譲れないもののために自分の気持ちを押しとおすこと。でも、自分でその気持ちを見つけることは難しい。大切なものに気づくのは大抵それを失ってからで、取り返そうと躍起になっても大抵は帰っては来ない。
それでも、本当に大切なものを失いそうになった時に人の見せる必死さは、仮にまだ大切なものを見つけていない人にでも痛いぐらいに伝わってくるものだと思う。
スクールアイドル活動の中で、私たちはたくさんのものを失ったり、失いそうになったりした。もし、選択を間違えていたら、今スクールアイドル同好会はなかったかもしれない。スクールアイドルフェスティバルも開催されていなくて、栞子ちゃんも、ミアちゃんも、ランジュちゃんも失っていたかもしれない。
それでも、大切なものを失いたくない気持ちがあったからこそ頑張れた。そうやってつかみ取ったからこそ、今この瞬間をかけがえのないものだと思えるのだろう。
SF研究会とのタイアップで披露した「Break The System」のために、私と歩夢ちゃんは、それを守るためなら世界のすべてを敵に回してでも気持ちを押しとおせるような、そんな大切なものを守るってどういうことなのかを模索するため、「わがまま」の練習をした。
すこしだけオシャレをして、背伸びをしたランチを食べて、記念写真を撮って。ステンドグラスの綺麗なチャペルの真ん中を一緒に歩いて。
歩夢ちゃんにとっての「わがまま」は、私にとって当たり前のことで、いつでも普通に聞いてあげられるようなそんなお願いだったけれど、歩夢ちゃんはそこから何かを掴み取ったみたいで。
舞台に立った時の凛々しさと頼もしさに磨きがかかった歩夢ちゃんのことを、その心の中にある想いが誰よりも強いことは疑いもないほどに、素敵なスクールアイドルなんだって思う。
かすみちゃんの芯の強さは、千歌ちゃんを思い出す。どんな時でも諦めないその姿こそが、無敵ではなくても無敵であろうとするかすみちゃんが、かすみちゃんらしくいる所以なのだろう。
自分を信じようとするという言う軸が、かすみちゃんの強さであり、しずくちゃんが憧れる「自分らしさ」なのだろう。
魔法少女研究会とコラボした時も、それは変わらない。「自分自身で」いるために必要なのは、ダイヤモンドのように「強く」「美しく」あることだ。
しずくちゃんは、かすみちゃんに憧れていた。心に芯があって、絶対に折れないその強さを眩しいと思っていた。だって、しずくちゃんは、心のなかに絶対に折れない武器がなかったから。いつだってしずくちゃんはヒロイン。ヒロインの歩く道は、誰かに導いてもらうしかなくて、だからひとりになったら迷ってしまう。追い詰められたら、迷ってしまうんだ。
そして、答えを探してスクールアイドル部に移籍してしずくちゃんが出した答えは、ヒロインの導き手こそがファンだったということ。舞台を作り上げるのは、女優だけの力ではなくて、観客がいてこその舞台だったということ。
観客と共に作り上げる物語こそが、しずくちゃんの武器、絶対に折れない武器だったということ。
スクールアイドル部に行って、そこでの経験と、同好会にあって部になかったものに気づいて。大切なものを再確認したしずくちゃんだからこそ、きっと演劇部と一緒に作り上げた舞台の上で、『エイエ戦サー』で武器を振り回すことができたのだろう。
しずくちゃんの武器は、ヒロインの背負う刀は、強い心を支える絆だったのだから。
愛ちゃんは、合同イベントのトーナメントを経て、本当に強くなった。これまでだって、ダンスは上手かったし、みんなの中でも頼れるしっかり者だった。部と同好会で分裂した時も、ピリピリしている中で愛ちゃんが部にいてくれて本当に助かった。最初からランジュちゃんの心に寄り添うために動けるのは、愛ちゃんだからこそだと思う。
ただ、意外と受け身でもあった。誘われた事には参加するし、そういう場があればそれに適したアイデアを生み出そうとはしてくれる。でも、ゼロから何かを始めるようなクリエイタータイプじゃなかったんだよね1歩目を最初に踏み出すことはできるけど、あくまでそれは「反応」なんだ。
でも、ランジュちゃんのスクールアイドル部に行ってから、自分から新しいことを始めることが多くなった。合同イベントも愛ちゃんが企画してくれたし、ユニットの言い出しっぺも愛ちゃんだ。校内フィルムフェスティバルでアナログゲーム研究部とコラボし、『Diabolic mulier』で妖艶な主人公を演じたりもした。自分から何かに”誘う”ことができるようになったんだ。
今までは、愛ちゃんが主役になることは少なくて、ムードメーカーではあっても、そのステージの主役は他の子に譲ることが多かった。物語の主人公、主役になり切れない。それが今までの愛ちゃんだった。
でも、せつ菜ちゃんに敗北して、本気を出して負ける苦しみを経験して、そして、本気でぶつかり合える楽しさを経験して。他の誰でもない、自分自身の道を切り開いて、ぶつかり合って、競い合えるような。誰のためでもない、誰かへのレシーブでもない、自分自身から始まった道を切り開いて行ける。
スクールアイドルが愛ちゃんにくれたものは、「自分をどう表現してもいいんだ、全部受け止めてくれるんだ」という自由。これからはきっと、愛ちゃんだって主役として輝けるんだと思う。歩夢ちゃんや、せつ菜ちゃんみたいに。
せつ菜ちゃんって、自分のことがあんまり好きじゃなかったと思うんだ。なんというか、不器用さに対する怒りとか、昨日に対する苛立ちとか、あの迫力のパフォーマンスのなかにたまにそんな負の感情が垣間見えることがある。
きっとそれは、今まで菜々ちゃんが期待されてきたから。期待に応えるために、雁字搦めにされて。せつ菜っていう逃げ場を作らないといけなくて、そのせつ菜という逃げ場も期待を浴びてしまっていて。ランジュちゃんに敗れたときもそうだった。
せつ菜ちゃんって、そんなに器用じゃないんだよ。自分の大好きを自由に叫んでいるときがいちばん魅力的なのに、すぐ抱え込むから。全部の期待に応えようとしてしまうから。そして、たぶん、それに応えきれない自分がそんなに好きじゃない。
でも、最近はすこしずつそれも変わってきていて。ライトノベル研究会とのタイアップで『ヤダ!』を披露しているのを見たとき、ちょっと嬉しかったんだ。せつ菜ちゃんが、ちゃんと「ヤダ!」って言ってくれているんだって。わがまま言ってくれているんだって。
もうせつ菜ちゃんは、自由に大好きを叫べるようになっているんだって、そう思ったら、本当に嬉しかった。これからもずっと、大好きでいさせてね。
3年生は、みんな大人びている。だからこそ、素直になれないのかもしれない。一歩引いて見ている果林さんも、手を差し伸べるエマさんも、お姉ちゃんの彼方さんも、みんなちょっと上から目線なんだよね。
でも、一度大喧嘩して、果林さんは部に移籍して、そして、手に入れたんだ。
仲間と、ファンと同じ目線で歩んでいくことの大切さを。スクールアイドルはステーの上に立っているけれど、それでも、ファンだって「スクールアイドル」なんだ。みんな大好きなことに一生懸命で、夢を頑張るのが大好きで、同じ夢を背負っていて。
そこに上下関係なんてないんだって分かって、3年生のキズナはより深まった気がする。
校内フィルムフェスティバルで、3人とも、誰かに何かを捧げる歌を歌っていた。
果林さんは、応援と演奏。エマさんは奉仕、彼方さんは情熱を。ちょっとだけ、見えている世界が変わったんだと思う。なんだか、すこし遠くにいた先輩たちと、本当の意味で近付くことができた気がした。
璃奈ちゃんは、自分が愛ちゃんにしてもらったように、殻に閉じこもった人の心に寄り添うことができる。そして、一年生の中でもいちばん大人なんだなと思う。
しずくちゃんとかすみちゃんが喧嘩した時は間に立ったり、どうしようもないと思った時は助けを呼んだり。
ミアちゃんがいなくなった時もそう。私じゃあ、ミアちゃんの力になれなかった。璃奈ちゃんの声がミアちゃんに届いたのは、璃奈ちゃんが誰よりもこころを繋げるために努力してきたから。そして、たとえ小さな声だったとしても、こころの声に耳を傾けて続けているから。
そんな璃奈ちゃんだからこそ、新しいものに恐れずに挑戦できるのだろう。例え記憶が消えたとしても、例え生まれ変わったとしても、何度でも同じ選択をして、ときめきと思い出を大切にしながら、恋をすることができる。何かを好きになることができる。繋がることができるのだろう。
校内フィルムフェスティバルでは、ゲーム部のプロモーションとして『First Love Again』を披露した。ゲームの登場人物のように、たくさんのチャレンジに挑戦すした璃奈ちゃんの歌声には、こころとこころで触れ合えるような部分が綺麗に表現されていた。
栞子ちゃんには、いろいろと助けてもらった。ランジュちゃんの一件の時は、本当にいろいろと助けてもらった。
そして、誰よりも学校への強い想いを持っている栞子ちゃんだからこそ、生徒会を背負っての『コンセントレイト!』が本当に素敵だった。ちょうど、この学校全体を巻き込んでPVを作り始めた時期だったから、ちょっとだけ気にしてたんだ。μ‘sやAqoursみたいに、スクールアイドルがちゃんと学校の名前を背負えているのかなって。
でも、誰よりも学校のことを想っている栞子ちゃんがいてくれるから、きっと同好会は学校の代表でいられる。私たちは虹ヶ咲のスクールアイドルでいられるんだ。
そして、そんな強い想いをもっている栞子ちゃんだからこそ、その気持ちをまっすぐ伝えることができたなら、きっとその強い想いは誰かに届く。
だって、薫子さんにも、ランジュちゃんにも、栞子ちゃんの強い想いは届いたんだから。
歌うことに再挑戦したミアちゃん。ずっとずっと音の中で叫んでいた想いは、璃奈ちゃんにちゃんと届いていた。そして、スクールアイドルとなった今、ミアちゃんは自由になった。自分の想いを歌で伝えられるようになった。大好きな歌を歌いたくて、でも、歌えなくて。トゲのように突き刺さった過去に妨げられた歌声は、誰にも届かないと思われていた。
でもだからこそ、歌には音楽があるんだ。音楽は、それ単体で聴かせるためだけにあるんじゃない。歌い手に寄り添うためにあるんだ。
そんな曲の作り方を知ったミアちゃんは、自分が歌うための曲を作り出す。かつて歌えなかった曲をもう一度作り直して。そして今度は、自分自身のこころに寄り添うように。
出来上がった曲は、ミアちゃんがミアちゃんであるための曲。『Toy Doll』は、自分自身の気持ちに寄り添った、「スクールアイドル」ミア・テイラーの曲だった。
ランジュちゃんは、とてつもなく不器用だった。「特別」だから友達ができなくて、それでも、友達を作りたくて、ずっとずっと叫んでいた。
ランジュちゃんは、とてつもなく不器用だった。友達ができたことがなかったから。栞子ちゃんと薫子さんしか、友達ができたことがなかったから。だから、ランジュちゃんは友達との関わり方が分からない。友達からの愛情が分からない。だから、接し方を間違えたり、すれ違ったり。
ランジュちゃんは、とてつもなく不器用だった。気持ちをまっすぐに叫んでいるのに、嘘なんてつかずにさらけ出しているのに、その歌声のパワーに圧倒されてしまって、だれもそれが叫び声だとは気づかない。すべてをさらけ出しているのに、そのすべてが「特別」だったから、誰もそのさらけ出された姿を直視してくれないんだ。
ランジュちゃんは、とてつもなく不器用だった。仲良くなるのに時間がかかりすぎた。だって、私はランジュちゃんに嫉妬されていたから。意地悪されていたから。だから、私とは仲良くしてくれないのかなって、そう思ってたから。でも、今ならわかる。私は仲間がいっぱいいて、お友達がいっぱいいて、そしてそんな「特別」な仲間たちの関係は紛れもなく「特別」だったんだ。だから、羨ましかったんだと思う。
ランジュちゃんは、とてつもなく不器用だった。さらけ出しているのに、直視してくれない。協調性がないから直視してもらえない。
でも、できないことだって、すこしずつできるようにしていけば、いつかできること、得意なことになると思うんだ。
ランジュちゃんは、とてつもなく不器用だった。大切な友達とも気持ちがすれ違って、いつか離れていってしまう。……本当は、だれよりもずっとさみしがりで、ずっと一緒にいたいって思っているのに。
だから、ランジュちゃんに必要なのは、ランジュちゃんを受け入れてくれるような、みんながそれぞれの「特別」でいられる場所と、同じ場所で一緒に「特別」でいてくれる人たちと、大切な人に気持ちをまっすぐに伝えるための歌を歌うこと、スクールアイドルであることだったんだ。
第1回スクールアイドルエキシビジョン PV
虹ヶ咲のPVを作るためにいろいろと模索していく中で、μ‘sからスクールアイドルファンサイトの企画の「μ‘sのお悩み相談室」のお手伝いを依頼された。
PVのヒントを探す意味合いも兼ねて、私はμ‘sに協力していくことになる。
いろんな悩みに答えていく中で、ひとつ、とても難しいメッセージがあった。
「学校が楽しくない」ってどういうことなんだろう?
今まで、私たちは当たり前のように学校を楽しい場所だと思っていた。学校が大好きだし、穂乃果ちゃんも千歌ちゃんも、そんな場所を守りたいからスクールアイドルを始めたと言っていた。
でも、どうして学校が好きなのかという質問に、私も穂乃果ちゃんも、簡単には答えを出せなかった。
それから、いろんな悩みに答えて。
自分の将来のために、夢を諦めるべきかどうか悩んでいる子に対して、真姫ちゃんが出した答えは、「自分のやりたい気持ちにウソはつけない」ということ。例え諦めずに夢を追いかけても、それが本当に叶うかどうかんなて分からないけど、それでも、自分のやりたいことをやらずに諦めたら後悔してしまうから。
だから、自分のやりたいと思う気持ちを信じてあげて欲しい、と。
転校が決まり、今の友達と別れることになってしまった子に対し、凛ちゃんは離れてしまっても友情は消えないんだって答えを出した。そして、離れるときに笑顔でいないと、友達に心配をかけてしまうから、だから新しい世界に飛び込んで楽しむことが大切なんだと続ける。聞いていると、歩夢ちゃんのことを思い出したりした。いつかは……別々の道を進んでいたりもするのかな……?
絵里さんには憧れを抱く人も多くて、だからこそ、絵里さんもまっすぐにお返事を返したりもしていた。
そして、気づいた。メッセージを送ってきた子が本当に知りたいのは、自分たちが「なぜ学校が好きなのか」なんかじゃない。だって、それを答えたところで、なんの相談にもならないから。学校がつまらないままでいいなら、そもそも相談なんてしないから。
むしろ、学校をどうにかして楽しい場所にしようと頑張っているからこそ、相談メールを送ってきてくれたんだ。
だから、私たちが本当に教えなければいけないのは、「楽しい」って気持ちを大切にすること。ほんの少しの勇気があれば、きっと世界は変わる。一歩前に踏み出して、大好きだと思えることを始めてみたら、楽しいと思えなかった場所でもきっと楽しい場所だって思えるんだって。
だから、μ‘sのPVは、『START:DASH!!』。何か新しいことを始める楽しさとワクワクを詰め込んだ、最高に楽しい今を生きるμ‘sのはじまりの曲。
今度はAqoursのお手伝いをすることになった。スクールアイドルのファンサイトの企画「Aqoursチャレンジ」。常に挑戦者として走り続けるAqoursが何かを頑張る姿は、きっと見た人に元気を与えることができる。そんな企画のお手伝いのため、私はまた内浦へと足を運んだ。
そんな中で、Aqoursも自分たちのPVを模索していくことになる。
千歌ちゃんのチャレンジは、「Aqoursがいちばん」って言ってもらうこと。憧れたμ‘sはすごいし、いつだって自分たちは背中を追いかける側だけれど、それでも、自分たちAqoursだってすごいんだって、そう思うから。
だから、千歌ちゃんのAqoursチャレンジは、スクールアイドルエキシビジョンで、AqoursのPVがいちばんになること。
体力のない自分がAqoursの足を引っ張っていると感じた花丸ちゃんのチャレンジは、憧れの凛ちゃんからダンスの修行をつけてもらう。
でも、そんな中で、気づいた。花丸ちゃんの武器は、歌の表現力だ。花丸ちゃんの歌声は、Aqoursの歌の世界観をより深くするもの、紡がれた想いをひとつの物語として表現するものだ。しずくちゃんのように登場人物を演じるのではなく、海のようにすべてを受け入れてくれるような、そんな力が花丸ちゃんの歌声のなかにはあるんだって。だから、足を引っ張ってるとか、そういうんじゃなくて、花丸ちゃんも立派なAqoursの戦力、すごい人なんだって。
3年生のチャレンジは、2年前のリベンジ。たったひとつの苦い思い出を上書きするために、一番最初のAqours、果南さん、鞠莉さん、ダイヤさんの3人は、大会で優勝したんだ。ずっとずっと輝きを待っていた3人。一度躓いた3人でも、また立ち上がって挑み続けることができるのは、きっと『ダイスキだったらダイジョウブ!』だからなのだろう。
善子ちゃんのチャレンジは、どんな不幸も吹き飛ばす幸運の女神像を手に入れること。沼津ウォークラリーの景品のなかにあるそれは、きっと善子の不運に打ち勝つことができるだろう。
しかし、当日も善子ちゃんは不運だ。宝探しに手間取り、もやい結びの縄が切れ、靴紐が解け、そして最後の最後では地図が風に飛ばされ。
それでも、あきらめずに挑み続けた善子ちゃんは無事ゴール。景品は残りひとつしかなかったけど、それこそが、善子ちゃんの求めていた幸運の女神像だった。そして、女神像と一緒に、善子ちゃんはもうひとつ大切なことに気づいた。それは、どんな不運のなかだって、逆境のなかだって、諦めずに挑み続ける勇気は、千歌ちゃんだけじゃなくて、善子ちゃんの中にも眠っていたんだということ。
ルビィちゃんのチャレンジは、三津シーパラダイスの広報大使のリーダーを務めること。普段は千歌ちゃんやダイヤさんが指揮を執っているためなかなか見られないが、実はルビィちゃんは指揮官としての能力が高い。関係者各所との打ち合わせをこなし、他のメンバーに指示を出し、そして欠員が出たときには全体を把握している自分がフォローにはいる。巧みなリーダーシップは姉であるダイヤさんに憧れてのものだと語っていたが、私はそんなルビィちゃんに憧れる人もたくさんいることを知っている。
そして、そんなチャレンジの中で、たくさん寄せられたファンレターを見て、「Aqoursに憧れてスクールアイドルをはじめた」人を見て、千歌ちゃんは気づいた。
憧れは、原動力だから、憧れは憧れのままでいいんだってこと。μ‘sに憧れてAqoursが生まれ、そしてそのAqoursに憧れて虹ヶ咲をはじめとしたたくさんのスクールアイドルが生まれたように、「憧れ」こそが何かが始まるきっかけだから。
そして、その「憧れ」の中にも、スクールアイドルがいる。Aqoursの心の中にμ‘sがいるように、虹ヶ咲をはじめとしたたくさんのひとの心の中に、Aqoursがいる。
そして、梨子ちゃんと曜ちゃんと、千歌ちゃんのもうひとつのAqoursチャレンジが始まった。それは、AqoursのPVの中に、他の誰かの心の中にいるAqoursを取り入れること。
そうやって「憧れを胸に、憧れを背負う」Aqoursは、新しい場所へと進んでいく。私たち中でずっと夢を歌い続ける、『ユメ語るよりユメ歌おう』って、今を伝えようとしてくるその姿は、きっと心の中だけじゃない。
それは、今この瞬間も、ずっと。
そして、μ‘sとAqoursだけではなく、虹ヶ咲にも企画の依頼がやってきた。
テーマは、「あなたの夢中を教えてください」。スクールアイドル以外で今ハマっているものを動画で紹介するとともに、どうしてスクールアイドルに夢中になっているのかを改めて考えてみるような、そんな企画になっている。
μ‘sとAqoursがそうだったように、私たちも原点に振り返って、私たちはどういう存在なのかって考えることが、これからPVを作っていく中で必要になっていくんだって思う。
そして、このPVは全員が主役、全員がスクールアイドルだからこそ、スクールアイドル同好会以外のみんなにも歌って踊って貰ってもいいんじゃないかなって、そういう提案もした。
「ビューティー道」にハマっている1年生は、それぞれのはじまりを思い出す。
かすみちゃんの原点は、「可愛い」ということ。最初の曲『ダイヤモンド』を作った時も可愛いかすみちゃんの輝きを宝石に準えて作ったんだ。でも、ダイヤモンドの理由はそれだけじゃない。ダイヤモンドの硬さは意志の強さ。絶対に砕けないかすみちゃんのこころは、きっとダイヤモンドのように強くて硬いんだ。
しずくちゃんの武器は、たったひとつ、演じること。でも、ただ演じるだけじゃない。演じることは、その人の人生を生きること。最高のスクールアイドルを演じることは、きっと自分が最高のスクールアイドルとして生きているということ。それは、入部した日からずっと変わらないこと。
璃奈ちゃんの原点は、愛ちゃんと繋がったこと。そして、スクールアイドルとの出会いが、世界の広げ方を教えてくれたこと。誰かと繋がることで、自分の知らない世界がどんどん広がっていって、そしてみんなで一緒に笑顔になれる。それがずっと、楽しいんだって。
栞子ちゃんは、自分の原点が他のスクールアイドルへの憧れだったから迷っていた。自分の武器と言えるものが見つからずに迷っていた。でも、その「夢を追いかけてる人を応援したい」という想いは、もうすでに栞子ちゃんだけの憧れじゃない。その想いは既に、誰かの胸に届いて、誰かの背中を押しているから。それこそが、栞子ちゃんの原点であり、一番の魅力だと思うんだ。
2年生が夢中になっているのはアウトドア。他の部活の助っ人に行った愛ちゃんが、仲良くなった人と一緒に始めたのがきっかけで、ちょうど5人ともドはまりしているところだった。
菜々ちゃんの原点は、大好きなことをするためにどんな努力でもできる強さと、やりたいことに向き合うまっすぐさ。「スクールアイドルが大好き」という気持ちだけで、菜々ちゃんはせつ菜ちゃんとしてずっとずっと走り続けてきたんだ。
ランジュちゃんの原点は、同好会を愛しているということ。プロでもなく、同好会として、スクールアイドルとして活動している理由は、ここにはランジュちゃんの大好きなひとと、ランジュちゃんのことが大好きな人が集まっているから。
愛ちゃんの原点は、とにかく楽しみたいということ。途中で「もういいかな」ってほどほどでやめちゃうんじゃなくて、限界まで突き詰めたくなってしますのは、きっとそれがスクールアイドルだから。苦しいことも、辛いことも、全部全部楽しさに帰ることができるのが、スクールアイドルのライブだから。だから、愛ちゃんの原点はずっと「楽しさ」なんだ。
3年生が夢中になっているのは、観劇。最近演劇部の部長と3年生は仲が良く、いろんな公演を何度も見に行っているらしい。
果林さんの原点は、素敵な仲間に、「負けたくない」こと。じぶんがすてきだと思える人たちに、同じようにすてきだと言ってもらえる自分でいたい。勝負に何度も敗れて、それでもそのたびにまた立ち上がって上を目指し続ける果林さんは、きっともう迷わない。
エマさんの原点は、穏やかさと優しさと、そして誰よりも強い意志。自分の信じたスクールアイドルに対してすごく真摯で、そして絶対に負けないからこそ、同好会での活動にずっとこだわり続け、そして『哀温ノ詩』にも再会できた。まるでそれは変わらず故郷がそこにあるかのように、安心できて、そして落ち着くんだ。その優しさと穏やかさが、絶対に変わることが無いって知っているから。
ミアちゃんの原点は、歌うのが大好きだということ。スクールアイドルになる前からずっと、ミアちゃんは戦い続けて来た。ランジュちゃんを始めとした、ワールドクラスの舞台での評価に晒されながらも、ずっとずっと諦めずに、気持ちを叫び続けて来た。それはたとえ、機械を使わないと聴こえないぐらい微かな音だったとしても、その精いっぱいの音を絶やさなかったから、ミアちゃんは今この場所にいるんだ。
彼方さんにとっての原点は、わがままであること。たとえどんなことであっても、自分が「やりたい」と思ったことはやりたいんだ、叶えたいんだって、チャレンジしたくなってしまう。普段は周りに気を使っている彼方さんだけど、スクールアイドルのときは、自分の本当にやりたいことを心から楽しむことができる。そんなわがままだからこそ、私たちはなんでも叶えてあげたくなってしまうんだ。
そんな中で、気づいた。今回のPVに使う映像に必要なのは、ダンスの映像じゃない。確かに、スクールアイドルのスクールアイドル活動は、歌って踊ることだ。でも、私たちはそうじゃない。「大好きで楽しい」を表現するのは、スクールアイドルと一緒に踊ることじゃないんだ。それぞれが好きなことで頑張っている姿。それこそが、スクールアイドルの、虹ヶ咲のスクールアイドルのスクールアイドル活動なんだ。
だから、私たちはみんなに撮り直しをお願いした。本当にみんなが輝いている姿、やりたいことに全力で打ち込んでいる姿。それこそが、虹ヶ咲のPVに必要な、最高の宝物だと思うから!
そんな想いを込めて投稿した『Love the Life We Live』は大きな反響を呼んだ。
「スクールアイドル」として参加した虹ヶ咲全体はなんだか今までよりも一段活気づいたようだった。そしてその影響で、栞子ちゃん率いる生徒会は、なぜか”今年度の”予算が増えた。
果林さんは雑誌で特集が組まれるようになった。今回は、セクシーとか、かっこいいとか、そういう方向性じゃなくて、果林さんの素顔に近い特集。「情熱」をテーマに。
愛さんはバスケ部の都大会の調整の助っ人をお願いされ。最後の大会の応援にも、同好会全員で応援に行くことになった。そして、今まで無冠だったバスケ部は、ついに優勝したんだ!
私は、しずくちゃんと演劇部の部長さんに頼まれて演劇の劇伴を作ることになった。一つのことにとことん打ち込む執念に感銘を受けて、その作り込まれた世界観を表現できるように、本当に集中して頑張ったなぁ。
果林さんも、将来もモデルを続けていきたいと言っている。部長たちも、将来も今やっていることを続けていきたいんだって。
いろんな人が、ずっと先の未来を見ている。自分の夢を追いかけている。でも、私はどうなんだろう……?
確かに、作曲は好きだ。でも、将来もそれを続けるかどうかなんて、分からない。正直、虹ヶ咲のみんなの曲を作る自分は想像できても、将来お仕事で曲を作っている自分は想像できないんだ。
じゃあ、私がそうやって志をもってやれることって、いったいなんなんだろう……?
そんな中で、私たちは沼津でのAqoursのライブに誘われた。
薫子さんの運転するマイクロバスの中でみんなと話しているとまた、今抱えているモヤモヤが膨らんでいく。
同好会が始まってからこれまでの思い出は、全部みんなのこと。みんなが頑張って、みんなが努力している姿。そしてそれは、どれも私がやったことじゃない。
みんなは自分の「楽しい」を見つけているのに、自分はただ今この瞬間の「楽しい」に流されているだけなんだって、そんな気がして。
周りのみんながどんどん成長していって、成功していって、夢をいっぱい語っていて。そんな中で自分だけが置いていかれているような、そんな気がしてしまって。
薫子さんにそんな話をしたら、すこしだけ共感してもらえた。薫子さんでも、そんな焦りを覚えたことはあったみたいで。
それでも、自分が人生を賭けてやりたいことや、将来の夢なんて、見つかる人の方が少なくて、自分のことなのに、分かんなくて、迷って、悩んで、不安になって。薫子さん自身も、まだまだ迷い続けていて。
それでも、目の前にあるやりたいことを全力でやっていれば、いつかはなんとなく見えてくるものがあるかもしれないって、そうやって言ってもらった。
ゆっくりと、ゆっくりでもいいから。きっと私だけの何かが見つかるかもしれない。
人はひとりじゃ輝けないけれど、私の周りはいろんな輝きに満ちているから、きっといつか私も輝けるって。
そう言ってもらって、少しだけモヤモヤが晴れた気がした。私の答えはまだ見つからないけど、でも今はそれでいいのかもしれない。
そしてやってきた沼津。Aqoursのライブ。
PVの影響もあってか、全国各地からものすごい数の人たちが会場に訪れていて。
そして、Aqoursのみんなも、リハーサルのときからなんだかものすごいエネルギーで。地元と言うか、本拠地と言うか、ホームと言うか、やっぱり舞台が沼津だったら、Aqoursのみんなも何かが違うみたいで。
本番も、圧巻だった。後から聞いた話によると、あのμ‘sでさえも危機感を覚えたらしい。パフォーマンスのレベルも、情熱も、歌声も、私たちが知っているAqoursのそれとは比べ物にならないぐらい桁違いにレベルアップしていて。
その原動力は、千歌ちゃんがなんども話していたように、憧れと、大好きなことでいちばんになりたいという気持ち。そして、そんなAqoursに力をくれる人たち、応援してくれる人たちにパワーを返したいという熱い想い。
これが……Aqoursのライブなんだ。
そんなライブ中に、事件は起きた。
『ユメ語るよりユメ歌おう』の途中で、マイクトラブルが発生。
マイクが音を拾っていなくて、歌が途切れて。会場が動揺で揺らいで。
それでも……聴こえてきたんだ。
マイクがなくたって、音がなくたって、Aqoursは歌っている。
Aqoursのみんなはトラブルにもぜんぜん慌てずに、いつも通りのパフォーマンスをしている。何か……何か力になりたい!!!
衝動のままに私は歌いだす。
「ユメを語る言葉より ユメを語る歌にしよう」
それは、漣が広がっていくようだった。私の声に反応した穂乃果ちゃんが、みんなに一緒に歌おうと呼びかけて。
ひとりからふたりへ。ふたりからみんなへ、次々に歌が広がっていく。
やがてそれは大きなうねりになって、会場全体をひとつの大きな歌声へと変えていった。それはまるで、想いがひとつになっていくかのように。
あの景色を、私たちはずっと忘れることはないだろう。
そして、ライブ後。打ち上げを抜け出して、千歌ちゃんとふたり砂浜で話した。
「夢」のこと。
千歌ちゃんたちAqoursの夢は、μ‘sへの憧れから始まった。でも、それはμ‘sになろうとすることじゃない。自分の大好きなこと、一生懸命夢中になれることを頑張って、頑張って、そうすれば、他の誰とも違う、Aqoursだけの輝きを見つけることができる。
μ‘sみたいにだれかの始まりにはなれないかもしれないけれど、だれかと一緒に進んでいくことができるような。
そんなグループになりたいんだって。
そして、そんな「夢」は、Aqoursだけじゃなくて。虹ヶ咲のPVを見たときに、ひとりひとりの夢が集まって、虹みたいな色とりどりの輝きになって。
それはきっと、ひとりひとりが自分の夢に対して夢中で頑張っている絡んだって。
そんな話をしていて、ふと思ったんだ。
もしかして、あのPVの虹の中には、私はいないんじゃないかって。だって……私には夢がないから。
そう思ったら、どうしようもないぐらい悲しくなってきて。
帰りのバスの中でも、ずっとずっとそのことばかり考えていて。気づいたら、涙が止まらなくなっていて。
みんなやりたいことがちゃんとあって、目標に向かってまっすぐ進んでいって、どんどん成長して大人になって行っているのに、みんなのように情熱を傾けてやりたいことがない私は、何も持っていないんだ。
曲を作るのは好きだけど、その世界で生きていくほどの覚悟も実力もなくて。
夢も見つけられていなくて、前に進められていない私は、ひとりだけ取り残されている気がして。
みんなの中で、吐き出して、泣いて、泣いて、泣いて。
それでも、みんなの言葉で、気づいたんだ。
夢って、ひとりだけのものじゃないんだって。誰かの夢を応援する事は、その人の夢を一緒に背負うことなんだって。夢ってひとりだけじゃ叶わないものだから、叶えるためには一緒に夢を背負ってくれる人が必要で。
だから、夢を一緒に背負って、目の前のやりたいことに本気で取り組んでいたなら、それだって、「夢を見ている」ことなんだって。
ああ、ちゃんと持ってたんだ。私の夢。ここにいるみんながスクールアイドルとして輝いていることこそが、私が夢を追いかけて来た証だったんだ。
ずっと最初から持ってたんだ。この胸の中に、ずっと。
私の原点は、「夢を追いかけてる人を応援する」こと。夢を追いかけてる人が大好きで、スクールアイドルが大好きで、そして、そんな夢を一緒に叶えるために頑張り続けて来たんだ。それが、私なんだ。これが、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の部長で、今を全力で楽しむ「スクールアイドル」で、そして誰よりもたくさんの夢を背負っている、私なんだ。
そして、私の隣にいてくれる歩夢ちゃんの原点は、私と一緒にスクールアイドル活動をすること。私と一緒に頑張って、嬉しさも涙も分かち合って、そして、「私」の夢を一緒に叶えてくれる人。
そうだったんだ。歩夢ちゃんが私の夢を背負っていてくれたように。スクールアイドルフェスティバルを歩夢ちゃんの夢だと言ってくれて、『夢への一歩』を私たちの夢の始まりだと言ってくれたように。私も、同好会や、μ‘sや、Aqoursや、虹ヶ咲のみんなの、「スクールアイドル」全員の夢を背負ってきたんだ。
気分が晴れて。悩みが晴れて。
悩んで泣いて、ずっとずっと苦しんできたけれど、ちゃんと答えを見つけた今この瞬間を、人は青春と呼ぶのだろうか?
きっと、「夢」で悩むのは青春の通過儀礼なのかもしれない。でも、悩んだ先で答えを見つけた今だからこそ、それは少し爽やかな思い出だと言えるのかもしれない。
曲を作りたくなった。悩んだことも、泣いたことも、答えを見つけたことも、全部を詰め込んだ曲を。
モヤモヤした気持ちを全部ふっ飛ばして、でも、このモヤモヤした気持ちも青春の1ページに残して。
そんな矛盾と葛藤すらも綺麗に思えてしまうような、この気持ちを、曲にしたい。
私が出した答えを、証にしたい。苦しんで、悩んで、そしてみんなに助けられてみつけたこの輝きを、絶対に消えない宝物にしたい。
この宝物を……私と一緒に夢を見ている人と分かち合いたい。
ギュッとかたく繋いだ手の温もりと、一緒に過ごしてきた中で巡っていく季節に想いを馳せながら、今の私の夢を歌に変えていく。
「後悔なんてしたくないから
走れ 全力で」
これが私が見つけた、私だけの輝き。私だけの……いや、私たちの夢。いつまでも輝き続ける、『永遠の一瞬』。
お台場に着いたとき、千歌ちゃんからメッセージが来ていた。沼津で伝え忘れたことがあったみたい。
スクールアイドルエキシビジョンのPVを見て、千歌ちゃんがいちばん輝いていると思ったのは、あのPVを作った人だった。
スクールアイドルや、学園のみんなが大好きだという気持ちと、その輝きをたくさんの人に伝えたいという意気込みとこだわりに愛情を感じて、それが千歌ちゃんの心に響いたのだという。
歩夢ちゃんが前に言っていたことを思い出した。想いって、伝わるんだって。
本当にそうだったんだ。私の全力が誰かに届いて、誰かの心を動かしていて。……がんばってよかった。本当によかった。
朝日に照らされ、鳥たちが起きてくる中、私は歩夢ちゃんともう一度約束をした。
これからもずっと、一番近くで応援するって。
答えをちゃんと見つけた後だから、私は今、自分が作ったPVと、ここで交わした約束を自信を持って誇れる。「これが私のスクールアイドル」、これが「私」の夢なんだって。
お台場レインボーカーニバル
スクールアイドルエキシビジョンのPVも提出して、すこし落ち着いてきたころ。虹ヶ咲では進路希望調査票が配られる時期になった。
それは特に3年生にとって重要な問題で、あの果林さんですら、夢と現実の狭間に多々させるとすこし迷うところもあるみたい。でも、最終的には、そんな夢を叶えるために努力を重ね続けられる自分を信じ、少し思い切った挑戦をしていく決断をした。
エマさんは、自分の過去を振り返り、自分が素敵だと思ったものを発信していきたいと思っていた。そんな時に、ランジュちゃんから動画配信をしたらどうかとの提案があったらしい。ひとまずの目標は、動画配信だ。
そんな時期に、私と璃奈ちゃん、せつ菜ちゃん、ミアちゃんの4人は「高校生ゲームクリエイターコンテスト」、彼方さんは「全国高校生No1パティシエ決定戦」に出場することになる。
しかし、彼方さんが大会に誘おうと思っていた加藤ツムギさんには、参加を断られてしまった。
ツムギさんは、スクールアイドルが大好きだった。大好きなスクールアイドルを応援するために、ずっとマカロンを作り続け、そして、「たくさんの人に聴いてもらいたい」「もっと人の多いところで歌った方がいい」「もっと気持ちを前面に押し出した曲の方がいい」って、自分の願望を押し付けてしまった。
だから、もう応援という名前のエゴの押し付けはできないし、お菓子も作らないって。
そんな中で、ゲームクリエイターコンテストの本番。端的に書けば48時間缶詰でゲームを作るルールだが、思った以上に過酷だ。しかし、こっちには、背景ストーリー担当のせつ菜ちゃん、プログラム担当の璃奈ちゃんに加え、劇伴担当のミアちゃんまで揃っている。……ミアちゃんはズルいんじゃないかなって、正直思わなくもない。
しかし、24時間の折り返しの時に、璃奈ちゃんが自分の作りたいゲームを作れていなかったことに気づいた。確かに、今作っているリズムゲームならみんなの夢がこもったいいゲームになるだろう。
でも、璃奈ちゃんが本当に作りたいのは、個人プレイゲームじゃなくて、協力型ゲーム。人と人とが繋がり合えるような、そんなゲームだ。上手い下手関係なく助け合って、みんなで一緒にひとつの課題をクリアしていくような、そんなゲーム。
だから、ゼロから作り直した。璃奈ちゃんが本当に作りたいゲームを作るために、璃奈ちゃんの夢を叶えるために。
途中、みんなが応援に来てくれたり、コメントをくれたり。ツムギさんも来てくれたりして、なんとか気力を保ちながらラスト5分で完成したゲームは、準グランプリを獲得。
でも、きっと一番うれしかったのは、璃奈ちゃんがファンクラブの、みんなと一緒にそのゲームをプレイしている時だったと思う。
ファンクラブのみんなの「璃奈ちゃんと繋がりたい」「璃奈ちゃんと遊びたい」「璃奈ちゃんが大好き」って想いが、璃奈ちゃんに夢をくれた。璃奈ちゃんに、みんなと繋がりたいっていう夢をくれたんだと思うから。
そして、そんな姿を見たツムギさんと彼方さんにも思うところがあったみたい。
彼方さんは、自分のライブで「ツムギさんへの応援」をすることを決意した。
流石に「応援はエゴの押し付けになる」って言われたら、私でも一瞬は揺らぎはする。でも、私たちはもう知っている。
確かに、行き過ぎた応援はあるだろうし、そこは難しい問題なのかもしれない。でも、応援が必要ないだなんてことは、絶対にない。
だって、エゴって、夢で願いで、そして道を教えてくれるものだから。「こうなって欲しい」っていう気持ちは、自分の進む道が間違いじゃないって思えるために必要なものだから。そして、誰かの応援が自分のエゴだってことは、きっとその誰かの夢を自分が背負っているってことだから。
だから応援は大きな力になるんだ。本当に嬉しいんだ。だって、私は歩夢ちゃんが私の夢を背負ってくれていなかったら、ここにはいなかったから。歩夢ちゃんが私の夢を歩夢ちゃんの夢だと言ってくれたから、スクールアイドルフェスティバルも、PVも、そして璃奈ちゃんのゲームも完成した。私のスクールアイドル活動も、誰かの応援がないと成り立たないんだ。
そんな想いが動かしたのか、ツムギさんは彼方さんと一緒に大会に出場することに。
初めて憧れのスクールアイドルを見たときの気持ちと、その人を応援したい、その人に食べさせてあげたいという気持ちを思い出したツムギさんのマカロンは、見事優勝。なんとなく、応援する事の意味を分かってきてくれたみたいだった。
そして、その大会の裏で、配信でできた繋がりを辿って、ツムギさんが憧れたスクールアイドルをずっと探し続けていたエマさんが、ついにその子とコンタクトをとることができた。
その子は今、シンガーになるために海外で勉強を始めようとしている。スクールアイドルで伸び悩んでいる時、みんなの応援が、ツムギさんの応援が自信をくれて、そしてもっともっと本気で歌いたいと思えるようになったから。
だから、みんなの期待に応えたいんだって。
応援の気持ちは、絶対に届くんだって、そう思った。
留学から帰ってシンガーになったその子に食べさせてあげるために、これからもマカロンを作り続ける。応援の気持ちを形にし続けることを誓ったツムギさんを見ながら、私も同好会にとって、歩夢ちゃんにとってそういう人であり続けたいと改めて思った。
世界は、まだまだ知らないことで満ち溢れている。
来年度のために学園案内のパンフレットを作っている栞子ちゃんは、虹ヶ咲の特色とはなんなのか、何のためにみんなは虹ヶ咲に入学したのかを中心に調査を進める。
そんな中で私は、どうしても音楽が勉強したくて虹ヶ咲の音楽家に入った時のことを思い出し、気づいた。
虹ヶ咲には、普通ではないような学科が多数存在しており、その学科で具体的にどんなことが学べるのかは新入生にも気になるはずだ。
そんな話をしていたら、なんと栞子ちゃんに面白そうなアイデアが閃いた。その名も、「他学科授業体験プログラム」。その体験で学科同士で刺激が生まれたり、生徒たちが他の学科の授業を体験することで、パンフレットの内容がさらにブラッシュアップされたりすることを狙った企画だ。
栞子ちゃんは企画書を提出し、そしてすぐにこのプログラムはスタートした。……栞子ちゃんって、やっぱり優秀すぎない?
そうやって、みんなでいろんな経験をしていく中で、愛ちゃんにひとつのアイデアが生まれた。
それは、経験の壁を取り払うこと。
今回のプログラムで、すべての学科の授業を体験した愛ちゃんは、病院の人や美里さんにそのことを話していた。でも、みんなが愛ちゃんの話を聞いてくれることと、実際にそれを体験することの間には、どうしても差があるんだって感じていた。
だからこそ、その壁を取り払うことが愛ちゃんの夢なんだって。そしてその夢は、愛ちゃんの今までの「楽しい」の先に合った。
愛ちゃんは、未知が大好きだ。知らないものや謎を解き明かして、それが分かるものになっていくのが好きだった。
世界には不思議なことがいっぱいで、テクノロジーだって謎だらけだ。当たり前のように使っているスマホだって、一見魔法で動いているかのように見える。世界はそんな謎で満ち溢れているけど、その謎は解き明かすことができるから。
それならば、テクノロジーを使えば、魔法みたいなことだって実現できるかもしれない。
虹ヶ咲の他学科授業体験プログラムで、知らなかった世界がどんどん広がっていくことを知って。ゲームの世界を通じて、テクノロジーによって人と人とが繋がっていくことを知って。
そこから生まれた愛さんの夢は、場所を作ること。メタバースならぬ愛バースの世界なら、距離や身体的なハンデを乗り越えて、いろんな世界に触れることができる。みんなが好きな時に集まれる世界から、どんどん世界が広がって行って。
虹ヶ咲学園のように、いろんな楽しいことができて、そしてそれを一緒に楽しめる仲間がいる場所を作る。たとえ現実では実現不可能なことだったとしても、メタバースのせかいなら叶うこともある。身体が弱くてもいろんな場所に行けたっていい。
そして、自分が今どこで何をしていても、何年たったとしても、戻ってくることができる場所を作ることだってできる。
愛ちゃんの中に生まれた新しい夢は、同じく場所を運営する人、生徒会長である栞子ちゃんの背中を押したみたいで。新しくできた学校のパンフレットには、愛ちゃんの作りたい世界は、虹ヶ咲みたいな世界であると書かれていた。
世界中の人たちとクラスメイトになるという愛ちゃんの夢は、きっと虹ヶ咲がそんな場所であることを何よりもはっきりと証明してくれているようで。
改めて、私はこの学校が好きだなって思った。
愛ちゃんに、空間を超えて繋がれる「場所を作りたい」という夢が生まれたのに影響されてか、私たちの中にひとつ、新しい目標がうまれた。
きっかけはμ‘sに誘われて、神田明神のだいこく祭りに参加した時のこと。μ‘sが地元に愛されている姿を見たり、前にAqoursのお祭りの運営を手伝ったことを思い出したりして、思いついた。
お台場は埋立地で新しくできた街だから歴史が浅くて、だから昔からの伝統の主亜釣りとかはないみたいで。虹ヶ咲の生徒もお台場の外からやってくる人も多い。
秋葉原や沼津のように、みんなが住んでいる町というよりは、お台場はみんなが集まってくる場所として、ここにあるみたいで。
それでも、ここに集まってきて来る人たちは、それがまるで故郷であるかのように、ここでたくさんの想い出を積み上げてきて。まるで観光地のようなこの町は、ここにいる人たちにとっての日常で、居場所で。
そして、私たちは、いつの間にか「お台場のスクールアイドル」になってきて。
μ‘sが秋葉原、Aqoursが沼津に愛されているように、私たちのホームグラインドはここなんだ、私たちはお台場を背負っているんだって、胸を張って言えるようになっていて。
何よりも、私たちは、そんなお台場が大好きだから。
だから、私たちで作ろうと思ったんだ。
100年先も続いていく、お台場の「伝統」を。私たちの「お祭り」を。
さっそく、いろんな場所に連絡を取った。話し合いはトントン拍子で進む。お台場の商業施設で働いている人たちの中にも、この場所を愛する気持ちがあって、そしてその気持ちをお台場全体で共有する試みは初めてだったから。
ダイバーシティの担当の人に話をした結果、なんと担当の人がいろんなところに話を持って行ってくれたみたいで、アクアシティ、デックス東京ビーチ、有明ガーデンも全面的にお祭りに協力してくれることになって。
どれも、ぜんぶ私たちが遊びに行ったり、イベントでお邪魔したりした場所だった。なんだか、私たちの積み上げてきたものが、今この瞬間に背中を押してくれているような、そんな気がした。
その4ヵ所をユニットごとに割り振って。
DiverDivaはその名の通りダイバーシティ、劇場のある有明ガーデンはA・ZU・NAが担当。デックス東京ビーチはQU4RTZ、R3BIRTHがアクアシティと決まり、それぞれの企画を進めていく。
そうやって、担当を割り振って、どのユニットが一番盛り上がるかを競おうとしていたら、それぞれの商業施設の人たちも、普段は自分たちもそんなことを考えているのだと話していた。
なんだか、仲間でライバルである私たちみたいだなって。
そういう場所だからこそ、お台場にまつわる思い出を写真や動画という形で展示できないかという提案まで受けて。さっそく璃奈ちゃんが、専用の投稿サイトを立ち上げたりしていた。
そして、私も、そんな思い出を形にしたくて。
このお台場が大好きで、ここで過ごしてたくさんの思い出を重ねててきたからこそ、この場所とみんなに向けた曲を作り始めた。
だから、ここには、みんながここで経験したこと、思ったこと、感じたことのすべてを詰め込んでいくんだ。
そうして迎えた当日。
商業施設のひとだけじゃなく、有明街づくりプロジェクトやマンション連合自治体を始めとした、地元の人たちの助力もあり、ついに私たちの新しいお祭り『お台場レインボーカーニバル』が幕を開けた。
この場所で、もっともっと思い出を作るために。この場所で、もっともっと絆を深めるために。お台場で積み上げた歴史と、この場所を大好きだと思う気持ちを、10年先、100年先まで消えないものにしていくために。
μ‘sとAqoursと、このお祭りに参加しているすべての人たちを証人に、歴史が始まった。
A・ZU・NAの担当する有明ガーデンのA・ZU・NAランドには子供たちがたくさん訪れていて。きっとあの子たちが、未来のレインボーカーニバルの一員になるのかなと思ったりした。この町は育児環境が整っていて……きっと私と歩夢ちゃんも、いつかは親としてこの場所に来る日もあるのかな。
そのためには、きっと私は歩夢ちゃんに子供を産ませるようなことをする日もくるのだろうか。すぐ近くにあるけど、遠い未来かもしれないそんな日に想いを馳せる。
アクアシティでは、R3BIRTHが世界中の屋台フードを集めていて。いろんな国の文化が集まり、刺激を与えあい。和菓子屋の娘である穂乃果ちゃんや、曜ちゃんや花陽ちゃんがなにか新しい料理のインスピレーションを得ていたように、こうやって新しい文化って生まれるんだなって思った。
ダイバーシティでは、DiverDivaは壮絶なダンスバトルを繰り広げていた。多数相手だろうがなんだろうが、すべての挑戦者と戦い続け、勝ち続ける二人の体力はどうなっているのだろうか?絵里さん、果南さん、ダイヤさん、真姫ちゃん、にこさん、花丸ちゃん相手に、どうして消耗しているのに引き分けに持ち込めるんだろうか?
そして夕方。デックス東京ビーチで、QU4RTZのメインイベント、巡り会いの灯篭流し。
死者を送るのではなく、出逢いに感謝してまた次の出逢いを願ってお願いを流す。
それぞれの夢や希望と、いつか未来の先で会えるようにって、そんな願いを込めて。
私のお願いは……「これからもずっとみんなで仲良くしていたい」
歩夢ちゃんは、何て書いたのかな。灯篭が海に流れていく綺麗な景色の中で、大好きな横顔に聞いてみたけれど、秘密にされちゃった。
そして、この灯篭流しが終わったら、このカーニバルのフィナーレ。虹ヶ咲のライブだ!
この曲に、全部詰め込んだ。大好きな人たちが、大好きな場所で歌うこの曲に、私たちのこれまでと、これからを全部詰め込んだ。
私たちはみんな、この街が大好き。
この街で過ごしてきた時間が大好き。
この想いはきっと、これから入学してくるたくさんのニジガク生に、お台場で生活する人に、お台場に遊びに来る人に、ここに関わるたくさんの人たちと共有されて、この街は発展していく。
今はまだ浅い歴史だけど、魔位置にを確実に繰り返して歴史は積もる。
私たちの毎日が歴史の1コマになる。
想いを巡らせて、繋ぎ合わせて、どこまでも時を紡ごう。
みんなのこころの中で、ずっとずっと輝き続ける思い出になりますように!
輝きに魅かれて、トキメキが生まれて。大好きで大切な仲間たちと、ただ信じるままに走ってきて、みんなの大好きな想いに正直に走ってきて。
だから、この一瞬は永遠に残り続ける。だって、私たちはこの日々を忘れないから。スクールアイドルの輝きは、大好きなことを頑張る輝きは、時を超えて永遠に残り続けるから。この場所で、ずっと。
だから、『KAGAYAKI Don't forget!』
みんなの練習メモ④
歩夢ちゃんの原動力は、思い出と、絆と、約束。
ふたりでたくさんの思い出を重ねて、たくさんの約束をして。
そうやって、強い絆で結ばれてここまでやってきた。
一緒に旅行に行くたびに、思い出と約束が増えていって。次は一緒に船に乗ったり、家族旅行でも2人だけの時間を作ったり。
小さいころには、お母さんがテレビで見ていたドラマの真似をして、一生一緒にいようって約束の指輪を作ったりもした。大きくなって、その指輪を埋めた地図を見つけたときも、その約束が有効で嬉しかったなあ。
歩夢ちゃんは、スクールアイドル活動の時間だけじゃなくて、普段の生活のほとんどすべての時間を一緒に過ごしてくれている。だから、どんな思い出の中にも歩夢ちゃんがいてくれて、そして歩夢ちゃんの思い出の中にも私がいる。私が覚えていなかったような出来事も歩夢ちゃんが覚えていてくれているし、歩夢ちゃんが覚えていなかったような出来事も私が覚えていたり。
もしかしたら記憶の隅で埃を被っていたかもしれない出来事だって、歩夢ちゃんと一緒なら大切な思い出になる。逆に、歩夢ちゃんと一緒じゃなかったら、なんだかちょっとだけ寂しい。
歩夢ちゃんがひとりでVTuberを始めたとき、私が一番側にいないことが寂しくて、モヤモヤして仕方なかった。ひとりでなんでもできてしまう歩夢ちゃんを見ていると、私の居場所がなくなってしまったみたいで、どんどん不安になってきて。
でも、歩夢ちゃんも同じ気持ちで。私たちのスクールアイドル活動は、一緒じゃないとダメなんだって。
だから、せっかく興味を持って始めたVTuberも、おしまいにした。これからは、自分が配信するんじゃなくて、応援する側として他のVTuberを見守っていくことにした。ふたりで、一緒に。
かすみちゃんのすごいところは、努力を続けられる心の強さだ。努力すること自体は、歩夢ちゃんや栞子ちゃん、愛ちゃんの方が得意かもしれない。かすみちゃんは、努力の方向性で迷走することがあるから。
それでも、例え努力の方法を間違えていたとしても、きっと努力したこと自体は無駄にはならない。確かに、家の外の道路で反復横跳びするのは努力の方法としては間違いだろう。しかし、例え間違えた努力だとしても、その結果かすみちゃんは交通ルールを覚えることができ、それがきっかけでホームアイドルの座を勝ち取ったのだから。
そして、その努力は自分のためだけのものではない。可愛くなるための努力の成果を常に共有する姿は、1年生を始めとした他の部員にも信頼されている。
だから、きっと、かすみちゃんが夢に向かってまっくずであり続けたなら、その原石をしっかり磨き続けられたなら、彼女はいつか本物の『ダイヤモンド』になるに違いない。
そして誰よりも輝いていて、誰よりも強いその宝石の名前を知っているのは、世界できっと私だけなんだ。
出会いの数だけ人生があり、出会いの数だけ選択がある。たくさんの人と出会い、たくさんの人を演じることで、たくさんの人生を重ねて来たしずくちゃん。
人生を重ねることは、演技の対象として相手に移入し、相手の意志と同じ根拠を辿って決断をしておくだけではない。人生を重ねた自分自身の存在が、相手の意思決定を左右することもある。時には、それが相手の意志に反することだってあるけれど、それが全く悪いかと言われるとそうでもない。
演劇部の部長さんの一人芝居を見かけて感激したしずくちゃんは、そのお芝居をみんなにももっと見てもらいたくてフライヤーで大宣伝。しかし、その結果、部長さんが一人芝居を辞めてしまうことに。
演劇部の部長さんは、自分の一人芝居を人に見せるためのものではないと考えていた。今まで自分の好きなように演じてきて、それが不思議と評価されていき、いろんな劇団からスカウトがくるようになった。もしそのスカウトを受けた場合、今までのように自由気ままに演じるのではなく、他の誰かに捧げるためにお芝居をすることとなるが、「誰かのために演じるとはどういうことなのか」と悩んでいた。誰かのために演じる自分は、自分の中にもいるのだろうかという、自問自答のために芝居をしていた。だから、人に見せる予定のなかったそのお芝居を辞めてしまって。
でも、話さなければ分からないこともある。部長さんがそういう考えに至ったのは、「誰かのために演じることができる」しずくちゃんの影響だったこと。そして、しずくちゃんは、好きなように演じている今の部長の演技が大好きだということ。
最初は、交わっただけの道だったかもしれない。でも、その道が重なれば、1人では生まれなかった物語が生まれることもある。他者のために「他者を生きる」とは、ただその決断を真似るだけではない。その他者として「私」が決断をすることである。ツムギさんがそうだったように、応援の気持ちは、誰かの意思決定を肯定するものでもあるから。
しずくちゃんの「誰かのために」演じることができる部分をリスペクトしている部長は、その「だれかのため」という生き方に支えられ、今までの自分のまま劇団の世界に足を踏み入れることを決めた。いつか、しずくちゃんのように「誰かのために」演じることができるようになるという目標を掲げて。
そして、そういう演じ方、生き方はいつしか、ただ導かれるだけではなく「私」として決断していく自信をくれたみたいだった。決められた台本通りに演じることしかできない、先輩に導かれるだけの後輩としてではなくて、今目の前にある選択肢を自分で選んでいく、「誰かのために」自分で選んでいくことができるようになったしずくちゃんは、きっといつか「あなたの理想のヒロイン」になってくれるのだろう。
その日まで、もう少しだけ、「特別な先輩」でいたい。
熱くなることと、冷静でいることは正反対だが、どちらかに振り切れてしまうとその両立は難しい。果林さんは情熱の人。でも、それと同時に、大人なイメージもある。当然だ。最高学年で、モデルの道で大人の世界で生きていて、そして、なにより私たちは後輩なんだから。
だからなのだろうか。たまに、果林さんが振り切れていないと思うことがある。覚悟を決めたのに迷ったり、実はまだまだ努力の伸び代があったりと、少し中途半端なんだ。
でもそれはきっと、果林さんの魅力でもある。確かに、情熱で比べたらせつ菜ちゃんやかすみちゃんに一歩劣るかもしれない。でも、それは果林さんの語る夢が、地に足がついているから。野望じゃなくて、目標だから。だから、果林さんは大人なんだ。
だからこそ、果林さんが全力を出せるようにしてあげたい。子供みたいに、無邪気なままに、自分の思うままに楽しむ果林さんがいちばん魅力的なんだから。
でも、そうやって支えてあげたいと思ってしまうことも、もしかしたら果林さんの武器でもあるのかもしれない。だって私は、今果林さんが立ち止まって欲しくないから、全く目を離せなくなってしまっているから。
楽しさは面白さ。そしてそのエネルギーは恐れを紛らわすこともできるし、誰かを笑顔にすることができる。
いろんな楽しいことを思いついて、いろんなことにどんどん手を伸ばしていく愛ちゃんの姿を見ていると、春に愛ちゃんを誘った時のことを思い出す。未知なるミチの先には、面白そうな未来が待っているから。
きっと愛ちゃんと一緒なら、まだまだ知らない景色がたくさん見えるはず!
とはいえ、知らない景色を見せてあげるって連れてこられたスカイダイビングで、絶対手を離さないって約束したのに、思いっきり手を離したのは許してないからね!責任取ってよ!
安心とは環境である。エマさんの癒しと彼方さんの癒しの根本的に違う部分は、エマさんは体力そのものを癒してくれるのに対し、彼方さんは私たちが体力を回復できる環境を作ってくれる点だと思う。なんだか、すこしお医者さんっぽいと思う。
そして、それは彼方さん自身も例外ではない。最近はスクールアイドルのステージ中だけじゃなくて、普段私といる時も、ちょっとだけ彼方さんはわがままになってきた。
それは、スクールアイドルとしてステージに立っている時だけじゃなくて、普段から彼方さんがやりたいことを自由にできるようになった、彼方さんが安心して誰かに寄りかかることができるようになったんだって思うから。
だから今の私は、ちょっとだけお姉ちゃん気分だ。
菜々ちゃんが背負い込む癖があるのは、昔からずっと変わらない。きっとそれは、菜々ちゃんの叶えたい夢が「野望」だからだと思う。不相応な望み、身の程をしらない野心。
叶うか叶わないか、叶えられるか叶えられないか、叶うことが簡単なのか難しいのか。現実と向き合わされた上で掲げているからこそ、それは「夢」じゃなくて「野望」なんだと思う。
最初は、不相応な望みだったと思う。先頭で旗を振る菜々ちゃん自身が自分の「やりたいこと」ができていなくて、そんな菜々ちゃんが大好きを叫んだっところで、説得力なんてなかった。せつ菜ちゃんの野望に本気で共感して、本気でその野望を叶えようとしてくれている人よりも、叶わない野望に必死に手を伸ばそうとするその切実さとか、悲しみに似た叫び声に魅かれてしまっているような人の方が多かったと思う。
あれから、少しずつ、菜々ちゃんは変わった。「大好きな世界」は守るものじゃなくて、正直に向き合うものだということ。不器用な自分に焦りを覚えたり、苛立ったりするんじゃなくてひとつのことにとことん向き合える自分として好きになること。
「せつ菜」が生まれる前、「菜々」ひとりだった時の想いも、一緒に未来へと連れて行くこと。そして、そうやって少しずつ変わることができたせつ菜ちゃんだからこそ、今だからファンクラブを作れるのかもしれないということ。
大好きを区分けしてしまうという理由で作らなかったファンクラブ。でも、クラブという線引きは、ただ気持ちに線を引くだけのものではないのかもしれない。
たったひとりでは叶えられない野望も、それを叶えたい同志がいれば、いつかは叶うかもしれない。少なくとも、志を同じくするものたちのいる世界は、せつ菜ちゃんの叶えたい世界がちょっとだけ実現できている場所だと言えるだろう。
これからも、せつ菜ちゃんは「大好きであふれる世界」を目指して大好きを叫び続ける。大好きな人たちと、「菜々」と、「せつ菜」と、そして、せつ菜ちゃんのことを大好きだと言ってくれる人たちと、その野望を本気で叶えたいと思っている仲間たちと一緒に。
人を癒し、包むこむためには、人を受け入れる強さと、そして人を愛する心が必要だ。海を渡ってきたエマさんにあるのは、人を癒すオーラと、スクールアイドルが大好きな気持ちだけじゃない。その夢を叶えるために頑張る強さが、今ここにエマさんを連れてきてくれたんだ。
そのこころの強さは、エマさんの声と一緒に繋がっていく。エマさんが『哀温ノ詩』を引き継いだ時のように、マイさんも写真館を継ぐために頑張っていて。頑張って、つまづいて、それでも立ち上がる強さをエマさんから貰って。
そして、気づいた。写真を撮るのに一番大切なのって、技術やテクニックじゃない。被写体を愛する気持ち、この瞬間を切り取りたいっていう気持ちなんだって。
そうやって繋がっていくこころがこの場所にあるから、エマさんは、もう少しだけ日本に留まることを決めた。これからも、大切な人のこころのよりどころになるために。繋がった心を、ずっとずっと絶やさないために。
人間関係には色々ある。先輩とか、後輩とか。璃奈ちゃんにとって、愛ちゃんから貰ったものは本当に大切なのだろう。ミアちゃんと繋がっているその姿は、どことなく愛ちゃんに重なって見える。そうやっていろんな人と繋がっていく中で、璃奈ちゃんは少しずつ素敵な表情を見せるようになった。それに対応するように璃奈ちゃんボードを改良しないといけないぐらい、表情が出るようになったんだ。でも、璃奈ちゃんボードも大切な相棒だから、まだまだアップデートが必要だ。
人間関係は色々あるように、人の目線の高さはバラバラだ。私は璃奈ちゃんより背が高いから、見えている景色はそれぞれ違う。目線を合わせようとすると、私は下を向いて、璃奈ちゃんは私を見上げることになる。
でも、隣で寝転んだら、同じ目線で見つめ合うことができるんだ。そうやって、ゆっくりと2人の時間が過ぎていく。これもきっと、璃奈ちゃんの発明。キモチを繋げ合うための、素敵な発明。
テイラー家と、ミアちゃん。その狭間で苦しんできたミアちゃんは、テイラー家の「ミア・テイラー」としてではなく、ひとりのスクールアイドル「ミア」としての自分、この世界にたったひとり、替えが効かない自分として歌うことや、自分の本当は歌が大好きだという気持ちに素直になること、そして、そんな自分を求める声にある意味で救われ、ここまで活動を続けて来た。
「自由」。ミアちゃんを縛るものは多かったけど、今までは、「縛られないように」してもらっていたのかもしれない。「ミアちゃん」を求めることそれ自体は、ミアちゃんの抱える「テイラー家」という刺さったままの棘に対してなんの影響力も持たない。
だから、「テイラー家」というステージでは、ミアちゃんは歌えない。でも、それは本当に自由なの?違う。ミアちゃんにとって本当の自由とは、「歌えない」を解決する事だ。できないことから目を逸らすんじゃなくて、それをできるようにするためにはどうしたらいいか考える。
そして、ミアちゃんは光に手を伸ばす。私の作った曲なら、私が側で見ていてくれるなら歌える。そう言って「テイラー家」のステージに立ったミアちゃんは、自由のために歌い始めた。誰にも縛られることなく、いや、かつて自分を縛っていたものを全て消し去り、かつて届かなかった空に手が届くことを信じて。
「歌いたい」とミアちゃんが思った時、たとえ何者であろうともミアちゃんがミアちゃんらしくいることを止められないことこそが、きっとミアちゃんにとって自由なんだと思う。
人は誰一人同じ人などいない。だから、誰もが「特別」になる資格がある。それに気づいて同好会に加入したランジュちゃんだったが、ピィピィという小鳥を拾ったり、動物園や幼稚園に行ったりする中で、もうひとつ「特別」について気づいたことがあるようだ。
それは、「特別」はただ持っているものだけじゃないってこと。ランジュちゃんが育てたピィピィが、巣立った後たくさんの友達を作ることができたように。
人と人は、関係性によって「特別」になれるのだということ。ランジュちゃんと栞子ちゃん、私と歩夢ちゃんがそうだったように、いろんなことを話して、いろんな気持ちを共有することで、誰かにとってその人は「特別」な人になる。大切な人になる。
私とランジュちゃんの中にも「特別」があって、その特別と特別が一緒にいるからこそ、私はランジュちゃんのことを、ランジュちゃんは私のことを「特別」なんだって思える。
それこそがきっと、ランジュちゃんのずっと探していた「特別」だったんだと思う。
栞子ちゃんは完璧で、なんでもできてしまうように見える。ファンクラブの話になった時も、自分を応援してくれる人だけではなく、学園の生徒全体に手を差し伸べたい、それこそが自分のやりたいこと、自分の喜びであるという想いから、ファンクラブは必要ないと言い切ったときは、まるで神様のように神々しさを感じたりもした。
それでも、はじめてのことも結構あるみたいで、初めてのことにあたふたしている時には、その生真面目さと初々しさが本当に可愛くみえる。
そして、ランジュちゃんや薫子さんのような人に巻き込まれがちなのが幸いして、先入観に囚われやすかったりする。とはいえ、その先入観自体はそんなに間違ってはいないんだけどね。
そんな自分を変えたいと思った栞子ちゃんは、自分の世界を広げる決意をする。いろんなことを取り込んで、いろんなことを受け入れていけば、自分の視野や世界が広がり、それはいつか人を助けることに繋がるから。
そうして、私たちは薫子さんと一緒にサバンナへと旅に出た。旅先ではしゃぐ栞子ちゃんを見ていると、なんだか薫子さんやランジュちゃんと重なって見えた。
一見、ぶっとびすぎていて笑ってしまうような経験かもしれないけれど、きっと栞子ちゃんなら、これまでの栞子ちゃんを作ってくれた人たちのように、それを大切な経験にして未来へと繋いでくれるんだって、そんな気がした。
みんなの活動記録を書いていると、みんなの作り上げる世界が、これからの未来に向けてどんどん広がって行っていることに、改めてすごいなあって思う。
私もそんなみんなの支えになりたい私のなかに、ひとつやりたいことが生まれた。
エマさんやミアちゃん、ランジュちゃんが同好会に来たように、栞子ちゃんがそうしたように、私も自分の世界を広げてみたい。
短期留学でいったニューヨークや、ロサンゼルスやラスベガスみたいなエンターテイメントの本場を見てみたい。
前に進んでいくみんなを応援するために、音楽でどうやって背中を押せるのかを、たくさん学びたい。
そうやって、世界を広げるのは大変で、普段の生活とは全然違う初めての世界のなかではきっと戸惑うことばかりだけど、そんな私の挑戦に、歩夢ちゃんも一緒に来てほししい。
スクールアイドルをいちばん近くで応援したい。そうやって踏み込んだ世界の中で産まれた私の夢は、「夢を追いかけてる人をいちばん近くで応援すること」へと変わって行った。
そして、今の私も、そんな夢を追いかけるために頑張ろうとしているから、その頑張る姿を、歩夢ちゃんには見守っていて欲しい。
そんな気持ちを伝えようとする前に、歩夢ちゃんは自分から着いてきてくれるって言ってくれて。気持ちは同じだったんだ。だって私も歩夢ちゃんも、最初からずっと同じ夢を見ていたから。
夢を追いかけてる人をいちばん近くで応援して、夢を追いかけてる人の夢を叶えることが自分の夢で、そして、そんな夢を追いかけてる人と一緒に、同じ歩幅で歩いて成長していくこと。
そんな夢で繋がっているから、きっとどんな場所にいたって、私は歩夢ちゃんと同じ場所にいられる。ふたりが夢を追いかけ続ける限り、私たちはずっと隣を歩いていられるんだって、そんなのもう言わなくても伝わっていた。
私たちは今はまだ大人になる途中で、世界中を旅してまわったりするのはすこし難しいから、まずは近いところから練習しようって、ふたりだけで乗り込んだ飛行機。
隣の座席の窓の外には知らない世界が広がっていて、そしてその窓の隣には大好きな人が私のことを見つめている。これから、何度も何度もこの景色を見ることになるのだろう。
これからも、卒業しても、大人になっても、結婚しても、ずっと。
そして最後のページには
この記録を誰が読んでいるのか、きっと未来の私は知らないし、その時私がどこで何をしているのかは、これを書いている私には分からない。
それでもきっと、ここまで読んでくれたあなたのスクールアイドル活動の中で、同じ悩みを抱えたりとか、同じところで躓いたりだとか、そうやって重なる部分があると思う。
だからこそ、知ってほしい。もしかしたらあなたの前にあるその壁は、今を生きているあなただけじゃなくて、スクールアイドルならだれもが直面する壁なのかもしれない。
ここにヒントがあるとは言わない。でも、答えは自分自身だけで見つけるべきだとも言わない。
ただ、知っていて欲しい。この壁はあなたの前にだけ現れるものじゃなくて、これまで紡がれてきたスクールアイドルの歴史の中でなんども現れて、乗り越えて、壊されて。そして、そうした積み重ねの先にあなたがいるんだってこと。
そして、今これを書いている私は、そんな壁の前に立たされたあなたを応援しているんだってこと。これを読んでいるあなたが、壁の前でくじけたりせずに頑張れたなら、私たちの夢のバトンはきっと、未来へとちゃんと繋がっているんだと思う。
そして、もしも今もスクールアイドルフェスティバルと、お台場レインボーカーニバルが続いているなら、それがどんな気持ちで、どんな思いで復活して、どんな願いから生まれたのか。そのバトンを、今スクールアイドル活動をしているあなたが未来へと繋いでくれると嬉しい。
私たちの思い出は、私たちだけのものだけど、私たちの夢と願いと、そして輝きとトキメキは、今スクールアイドルをしているあなたの想いと一緒に、ずっとずっと未来へと繋がっていくことができるはずだから。
そして、そんなあなたも、あなたの大切な人たちと一緒に、その胸のときめきをずっと先の未来まで繋げていって欲しい。
そして、お台場と、虹ヶ咲と、スクールアイドル同好会と、スクールアイドルと、スクールアイドルが大好きな人たちが、ずっとずっと輝いていますように!