第三話はLIella!やA・ZU・NAがあって間に合わなかったので、先に書きやすい方から投稿するみたいです。
理想の姿に届きそうなのに
三船栞子は初めて登場した時の印象は、「『あなた』の上位互換」だった。
「あなた」の仕事は、同好会の仲間たちとの絆を深め、一番隣に寄り添うことで、進むべき道へ導いたり、やりたいことをサポートすることである。そして、スクスタのゲームシステム的には、そうして絆を深めて強くなったスクールアイドルそれぞれの特徴を生かして楽曲を攻略する司令塔、いわばポケモントレーナーや将軍のような役割を持っているのが「あなた」であるが、栞子はそのすべてにおいて「あなた」以上の才能を持っているといっていい。
スクスタで初登場した栞子は、生徒の適性を見抜き、より活躍できる部活へと導くことで、成功体験を与えることができた。そのやり方の是非はともかく、それが例外なく成功していたことは、重要である。
それに対して、「あなた」が適性を見抜く力やそれを伸ばす力は、栞子より優れているとは考え難い。
それが顕著に現れているスクスタの5章『μ’sの秘密を探れ!』6章『勝負の行方』を例に考えてみよう。
5~6章では、μ’sと虹ヶ咲が対決する事になり、様々な対決を1人ひとつずつ九回戦で行っていたが、ここで「あなた」は人選ミスを繰り返していると考えられる。
少なくとも、「朝香果林はダンスで絢瀬絵里に勝てない」「桜坂しずくは歌で園田海未に勝てない」「天王寺璃奈は服飾で南ことりに勝てない」「上原歩夢はカリスマで高坂穂乃果に勝てない」「中須かすみは矢澤にことアイドルとしては引き分け」と、人選的には5回勝てない選択をしてしまった訳だったが、本当にこれは最良の選択だっただろうか?
この対決は実は勝ちルートがある。
虹ヶ咲が勝利した対決に、せつ菜vs真姫のアイドルソングイントロクイズがあったが、この対決では西木野真姫はアイドルの知識がなかったため何もできずに敗北している。従って、結果を見れば、優木せつ菜という強カードを消化試合に切ってしまった事になっている。
これがもし、例えば中須かすみと優木せつ菜が逆だった場合、当然アイドルに精通しているかすみは真姫に危なげなく勝利し、せつ菜とにこの対決はもっと有利な形で展開できていたはずである。また、海未との歌対決も、しずくは敗北したが、せつ菜ならまだ勝ち目はあったのではないだろうか?
従って、この対決カードの正解は、「エマvs花陽」「彼方vs希」「凛vs愛」「かすみvs真姫」をマッチアップさせたうえで、せつ菜を海未かにこと対決させることである。
栞子はかなり強引に転部を勧めていたりしたようではあるが、少なくとも、このとき「あなた」は、勝利したいならそうした冷徹な判断ができるべきであった。しかし、このように最前手と考えられる選択を取ることができておらず、「適性を見抜く力が優れている」とは言い難い。
また、せつ菜や歩夢とのエピソードを見ても、栞子が「あなた」より優れていることは明白である。
せつ菜はかつて同好会を空中分解させた張本人であり、そこから特に何か成長するところもなく生徒会長を続けていた。スクスタではたまたま失敗しなかっただけで、アニメのように重大な局面で1人で抱え込んでしまう事になり、生徒会が機能しなくなる結末を招く可能性を孕んだ状態であったことは間違いない。
また、『LIKE IT! LOVE IT!!』のキズナエピソードでも、せつ菜は最初他者の代弁をしようとして結果上手くいかなかった。
これらを実際に指摘し、なおかつどうするべきかという道まで示したのはすべて「あなた」ではなく栞子であるが、本来それは「あなた」がすべきことであったというのは言うまでもない。
また、歩夢についても同様である。スクスタ15章『みんなの夢のために』で、最後まで歩夢に寄り添っていたり、歩夢の気持ちを理解していたのは栞子であり、間違っても衝突してプレゼントを叩き落とした「あなた」ではない。
そして、これは「あなた」から産まれた侑も例外ではない。
アニメ1期とスクスタの1stSeasonは、共にスクールアイドルフェスティバルが最終到達点であったが、前者は降雨に対応できず上手くいかなかったのに対し、後者は大成功している。
そして、この二つのスクールアイドルフェスティバル開催の差を大きく分けたのは、それに三船栞子が関わっていたか否かであるという事ができるだろう。
スクスタでは、ボランティアを募ることに関して栞子が最初からしっかりと希望者と参加者は違う点を指摘し、集まらなかった時のことを考えて行動していた。また、結局1000人集めきったのは歩夢と栞子の尽力である。
それに対し、アニメでは雨が降ったことですべての予定がダメになってしまった。侑率いる実行委員会は、雨に対するリスクケアすらできていなかったのである。*1
これらに代表されるように、栞子は「夢を追いかけてる人を応援する」という点において、「あなた」や侑の上位互換ともいえる存在であると言える。
だからこそ、今回のエピソードで栞子が侑と同じ言葉を言った時、それはある意味で侑に対する挑戦状、いや、トドメを刺すような、そんな表現のように思われるかもしれない。
しかし、今回のエピソードには、「あなた」や侑が三船栞子に勝るポイントが1つだけ残されており、だからこそ、「あなた」や侑は栞子を対等にライバルとして見ることができるのだと思う。
該当のシーンで流れている劇伴は『あなたと私と私たちの夢』であった。
初出は今回の栞子の台詞を侑が発した時に使われたときであり、アニメでもたびたび使われている劇伴だが、2期8話『虹が始まる場所』で、侑が同好会に追いつき、自分の夢に気がついて以降、今回はじめて使われている。
さて、「劇伴が聴こえる」という描写は、ラブライブ!シリーズの音楽担当キャラクター*2の共通表現である。
それぞれが手掛けた『僕らは今のなかで』*3『想いよひとつになれ』『キセキヒカル』『瞬きの先へ』『追いかける夢の先で』、スクスタのホーム画面の真姫、梨子のテーマ等、劇伴として生まれた曲が何らかの形で作中のキャラの作品に影響を及ぼしている表現はシリーズを通して使い続けられているが、虹ヶ咲では今のところまだ見当たらない。*4
しかし、片鱗は見せ続けていた。『これが私のトキメキ!』の構成が8話版の『TOKIMEKI Runners』と似ていると言われれば似ているし、似ていないと言われれば似ていないという絶妙なラインである。
また、『未来ハーモニー "with YOU"』のように、劇伴なのか楽曲なのか境目が曖昧な楽曲も生まれており、高咲侑は劇伴が聴こえているといっていいのかどうか分からない状態であった。
しかし、今回のエピソードで使用された『あなたと私と私たちの夢』は、少なくとも歴代の音楽担当と同じように、何らかの形で侑が聴こえている、もしくは奏でることのできる曲として使われていたのであり、それは三船栞子との重大な差別化要素となっているのである。*5
まず、今回の劇伴のスタートは、
まあ結局、都会で暮らすかっこいいお姉さんに憧れたって言うだけの話なんだけどね。
この地点であり、またそれ以降の場面転換は、部室全体を見える角度。もしくは侑から見た視点の画角で描写されている。
少なくとも、ここは侑の目線である。
また、栞子と侑が並ぶことによって、例え栞子目線の描写であっても、それはすべて侑の目線の描写と重ねることができる構図となっている。
また、ちょうど「私は作曲の道に」の直前*6に、ピアノの音が入ってくるようになっている。
また、侑の視点で映る果林、栞子、しずくは、それぞれ「夢を追いかける人」であると言える。そして、彼女たちと並んで「夢を追いかける人」である侑の目にそれは、『あなたと私と私たちの夢』として映っているはずである。
これらのことから、今回の劇伴は高咲侑の姿を描写するための劇伴ではなく、高咲侑の認識を表現する劇伴、つまり高咲侑の音であり、侑はこの時点で、歴代音楽担当と対等な表現手段を獲得していると言える。
アニメの作中や、スクスタの1st Seasonでは、能力として栞子に劣る部分が散見された「あなた」と侑だが、今やこうした表現を獲得していることは、栞子にはない、侑オンリーワンのものではないだろうか。*7
その他雑記
果林が左足を湯呑に突っ込んでる。
*1:この点に関して、歴代シリーズで重要なモチーフである「雨」の使い方が雑であるとの指摘が当時から挙げられていたが、むしろ、「雨」というチャンスの前のピンチの象徴であり、涙を想起させるようなモチーフすら、「チャンスに変えたり」「笑顔に変えたり」できないという侑の無力さを描くことこそが、あの場面での「雨」の意味であると私は思う。
穂乃果や千歌と違って侑はすぐ諦めるし、絵里や梨子や栞子のように導き手として有能なわけではない。「雨」をそういうモチーフに「昇華することができない」ことを描くことこそが、あの場面で雨をという表現を用いる最大の理由である。
*2:全員私の推し
*3:真姫は最近気づいたので、掘ればもっと出るかもしれない
*4:『Awakening promise』のイントロがスクスタの歩夢のテーマと共通点があるらしいが、確証はない
*5:とはいえ、栞子はショパンは弾けるらしいので、もしかすると……
*6:正確には、しずくの台詞の後半あたり
*7:ちなみに、「あなた」に関してだが、6章で真姫に敗北した際に真姫が弾いていた曲の初出は、キズナエピソードで「あなた」が弾いていた真姫のテーマである。このことから、「あなた」には元々備わっている能力であると考えられる。