「好きなことを好きでい続けるのは難しい」
ラブライブ!フェスの伊波杏樹さんの言葉です。当時の自分にはあまりピンと来ていなかったんですけど、今ならどうしてピンと来ていなかったのかわかる気がします。
ラブライブ!シリーズの中では、好きなことを素直に好きだと言えなかった人がたくさん登場しました。
好きなこととやりたいことは、同じじゃないけれどすぐ隣にあるんだと思います。「やりたいから」で始まったμ‘sは、A-RISE撃破の最終予選では「大好き」で突破しています。
好きなこととやりたいことが同じだったことで苦しい想いをした人もたくさんいます。
好きなことが「できないこと」になった結果、好きなものを好きだと言えなくなってしまったキャラクターは、桜内梨子、ミア・テイラー、澁谷かのんと枚挙に暇がありません。
好きなことを素直に「好き」と言うことに臆病だったり、自分の好きなことがやりたいことと結びつかなかったキャラクターも、高咲侑、あなた、葉月恋、米女メイなどが挙げられると思います。
敢えてこの人選で名前を挙げました。そう、歴代の作曲担当、音楽担当キャラクターは、みんな自分の「好きなこと」と「やりたいこと」の狭間で苦しんできました。
桜内梨子やミア・テイラー、澁谷かのんは、「やりたいこと」として期待を背負った結果、「好きなこと」がトラウマになってしまって。
「好きなこと」が「やりたいこと」にならなかったあなたは、自分に夢がないことで苦しむことになったり。
高咲侑は「やりたいこと」が「好きなこと」であることであることに気づくのに21話もかかって。
葉月恋や米女メイは、「好きなこと」を表に出すのに臆病だったり。特に恋に関しては、「好きなこと」と「やりたいこと」が同じなのに、自分の好きを切り捨てるようなことをしてまで「やりたいこと」を実現しようとしたり。
西木野真姫もそうでした。
真姫にとって大好きな音楽は、彼女にとっては夢ではありません。
真姫は西木野総合病院の跡取り。その将来は宿命的に定められたことではあります。
しかし、本人にまだ自覚はなくても、真姫自身のなかに家を継ぎたい気持ちはあることは園田海未によって見抜かれているように、その宿命は真姫にとって望む未来でもあります。
だから、真姫は「好きなこと」が「やりたいこと」じゃないんです。
音楽が大好きなのに、将来音楽を続ける道なんて端から閉ざされて。
頑張って小学生ながら2位に輝いたコンクールでも、両親は「なんだ、1位じゃないのか」「真姫は勉強ができるからそのほうがすごい」という反応をされてしまうように、音楽は全然期待なんてされてなくて。
アニメでも「私の音楽はもう終わっている」と発言していたように、真姫にとって音楽は「叶わない夢」であり、「やりたくてもできないこと」です。
「輝く」手段を奪われ、「大好きを叫ぶ」ことも「自分を表現する」こともできず、だから「自分の気持ちを素直に表現する」こともできない。
音楽を失ったことで、梨子やミア、かのんは本当に苦しみました。
苦しんで、救いの手を差し伸べられるまで、大好きな気持ちから逃げ出してしまいました。
でも、真姫は逃げなかったんです。
将来の夢に音楽を掲げることができなくて、音楽はきれいさっぱり諦めて全く違う道を歩いて、それでも、音楽が大好きでいることをやめなかったんです。
医者になるためのお勉強をしながら、家に帰る前に少しだけピアノを弾いて歌って。そんな日々を、真姫は幸せだったと振り返っています。
それが、例え「終わってる夢」だったとしても、誰からも期待されなくても、誰もいない音楽室でたったひとりでずっとピアノを弾き続けていられる。
「やりたいこと」が「夢」じゃなくなって、大好きな気持ちが誰にも受け取って貰えないまま心の中で押し殺されて、そんな状況でも「ピアノが大好き」と胸を張って言える。
音楽をがんばることを諦めても、音楽を大好きでいる気持ちは変わらず持ち続けていられる。
それが、西木野真姫というキャラクターの最大の魅力であり、そして最大の強さなんだと思います。
先日、「にじよんあにめーしょん」で『ミアと歩夢とホラー』が放送された時、私は真っ先に『Music S.T.A.R.T!!』のOVAを思い出しました。
プライドが高くて素直になれないこと、作曲担当であること、環境が理由に大好きなものを諦めてしまったこと、悪夢を見たことと、とても共通点が多い回でしたが、1つだけ決定的に違う点があります。
それは、夢から覚めても歩夢にビビり倒しているミアに対し、真姫は
「さっき話した夢、確かに怖かったけど、ちょっと楽しかったかも」
と、夢の中で起きたことを肯定的に捉えていることです。
怖い夢には、その人が怖いと思っているものが描かれています。
期待に押しつぶされ歌うことができなかったミアの夢の中には、ミアの方をドラえもんの温かい目凝視する大量の璃奈ちゃんボード。
そして、歩夢のお団子が落下していくシーンは、劇場版で6人のAqoursが、静真でのライブでミスをしたシーンを想起させます。(これは考えすぎかな?)
そして、夢から覚めたミアは、歩夢のことを見て侑の後ろに隠れるぐらいビビっていました。
それに対して、真姫の夢の中に出てきたのは、真姫を捕まえようとする8人の影でした。そして、それに追いかけられる夢を、
「さっき話した夢、確かに怖かったけど、ちょっと楽しかったかも」
とコメントもしているように、ミアとちがってそれを肯定的に受け入れています。
『Music S.T.A.R.T!!』のOVAはかなり曖昧さを残している作品であり、9年経っても未だに意見が分かれる程考察の余地があり、そのフワフワした感じが魅力でもあると思うので、敢えて今回は深堀はしません。
でも、恐怖の対象として表現されている、真姫のことを追いかけてくる8人の影が、真姫の好きなものを脅かすものであるということまでは間違いがないんじゃないかなと思います。
そして、このことから真姫は好きなものが脅かされる環境であっても、それを「楽しい」と言えてしまうキャラクターであることが分かります。
考えてみれば、「やりたいこと」と「好きなこと」は必ずしも同じになるわけではありません。
ラブライブ!ではイコールになりがちですが、別に音楽を好きな人間が全員音楽を志すなんてことはなくて、大抵は真姫みたいに音楽をちょっと触りながら本業をやってるって感じなんですよね。
でもそれは、あくまでも続いている人の話。
小さい頃はスターになりたくて部活や習い事を頑張っていたのに、大人になったらやめてしまう人は本当に多いと思います。
また、コロナの影響でライブが無くなったかラブライブ!から離れてしまった人もたくさんいると思います。
別に何かを好きな気持ちと、それが手の届くところにあるかどうかなんて関係なくて、スポーツ選手になる夢を諦めてもスポーツが好きなら続ければいいし、音楽のコンクールで失敗してもそれが好きな気持ちを持ってちゃいけないわけでもありません。
でも、たいていの人って、夢を諦めたらそのまま好きでいることもやめてしまうような気がするんですよね。
その「好き」な気持ちには常に諦めが付き纏うとか、諦めた夢は呪いになるとか、好きでいられなくなる理由にはいろいろあると思います。むしろ、シリーズを見てくると、そっちの方が普通なんだと思います。
だからこそ、そんな状況でも当たり前のようにピアノを好きでいて、当たり前のように音楽が好きでいたことって、全然普通じゃなくて、本当にすごいことなんですよね。
そうやってずっと好きでいたからこそ、「音楽は終わっている」真姫が、当たり前のようにピアノを弾き続けて、そして穂乃果に出逢ったのって、すっごく愛おしいなって思います。
どれだけ理性的になっても、
好きな気持ち、やりたい気持ちにウソはつけない
周りから何を言われても、
自分がやりたいことをこころのままにやれたら、
無駄なことだって無駄じゃない
将来の自分だって、
絶対に無駄なことだったなんて思わないはず
諦めなければ夢は叶うのか、それはわからないけれど、
諦めたら後悔することは確か
だから、自分の気持ちを信じてあげて欲しい
そこに後悔はないはずだから
仮にそれが夢とかやりたいこととか、そういうのと結びつかなくても、好きなことを好きでい続ければ後悔しないって、真姫が言ってるのって、本当にずるいですよね。
こういう素直になれないところも、伝わらなくても熱い思いを捨てずに持ち続けてるところも、ずっとずっと大好きです。