こんにちは。黒鷺です。
虹ヶ咲関連の文章を書く時は、お台場のテレコムセンターでよく作業をしているんですけど、最近ちょっと変化がありまして。
昔から文章を書く時MONSTERを飲んで集中して仕上げる不健康習慣があって、だからテレコムセンターで作業する時は施設内のファミマでMONSTERのコーラ味を買って飲んでたんですよね。
それが、この前行ったら取り扱ってなくて、すごく時の流れを感じました。
うわぁ、お台場も変わったな……、って。
近場のファミマも、愛飲していたLemonade味のMONSTERの取り扱いを辞めていて、当たり前のようにあったものも当たり前じゃなくて、いつの間にか無くなってしまうことだってあるんだなって実感しました。何の話だこれ。
さて、今回は「#これが私のトキメキ」の企画に寄稿したブログとなります。
【カウントダウン・タグ企画🌈】
— わらみん (@WaraminLiver123) 2024年7月27日
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会完結編第1章公開に向けてカウントダウン企画を実施します!
参加方法は「タグをつけてポスト」するだけ!
あなたの虹ヶ咲への想い、是非聞かせてください!#これが私のトキメキ pic.twitter.com/uISHwQK672
前回はハバネロさんの『Eternal Light』でした。
タイトルから察せるように、2期8話のことを中心に書いていたため、下書きでは「前回は2期7話挿入歌『EMOTION』の記事です!!!」って書くバカをしていました。
ぼく「果林視点で考えたことなかったな~。なるほどな~。おもしろ~!……ん?」
ハードルめっちゃ上がってて号泣していますが、今回は『Infinity!Our wings!!』について担当させて頂きます。
この曲が登場してから2年。特に話題として挙がりやすい歩夢ちゃんやせつ菜ちゃんに関連したエピソードでもあるため、この曲そのものについては、ある程度語り尽くされていると思います。
2期6話『"大好き"の選択を』で描かれた、せつ菜ちゃんと「大好き」に関わるテーマに関しては、虹ヶ咲初期から特に目立って語り継がれていることもあり、誰しもが一度は直面した内容でもあると思います。
しかしこの曲には、アニメの中でもうひとつ役割がありました。
アニメ2期8話『虹が始まる場所』において、曲作りに悩んでいた侑に聴こえてきたのがこの曲でした。
アニメ2期の予告映像の超えたい、私も。が回収されたシーンでもあり、「高咲侑は具体的に何をしたいの?」という問いに対する解答でもある、2期の中でも圧倒的に重要度の高いシーンなんですよね。
そっか、私は…… ファンの私は……
スクールアイドルのパフォーマンスや音楽だけにときめいてたんじゃなくて、
自分を目いっぱい伝えようとしているみんなの姿にときめいていたんだ。
私も、みんなに近付きたい。
みんなと一緒に、今ここにいる私を伝えたい!
そうなんだ、これが私のトキメキ!
一応答えをそのまま言ってるんですけど、これがどういう経路でどうしてこうなったのかが分かんないと、何言ってるかよく分かんないよね、っていう。
今回は、『虹が始まる場所』で描かれた「これが私のトキメキ」って何だったの?ということについて、そのきっかけとなった『Infinity!Our wings!!』に沿って振り返っていきます。
虹ヶ咲のアニメって「分かりやすい」の?「難しい」の?
「難しい」と思う理由を探ってみよう
さて、本題に入る前の導入として、ちょっとこういう話に触れた方が色々と見やすくなると思うので、よくある問いについて自分の見解を述べておきます。
「その是非は今回の話に関係ない」と予防線を貼ったうえで書きますが、虹ヶ咲のアニメに対する感想を見ていると、「同じ認識で逆のことを言っている」といった現象が頻発しているように感じられます。
どういうことかというと、例えば「虹ヶ咲はソロ主体だから全員のお当番会がある」という要素に対して、「全員をしっかり描けていて神」と「9人分も個人回いらん」という対極の感想が出やすいということです。
同じ虹ヶ咲のスクスタを含めたラブライブ!シリーズの他の作品だと、この現象ってあんまりなくて、肯定意見と否定意見の対象となっている要素が別の場所にあったり、要素の認識における解像度に大きく差があったりします。
こうした現象が起きる原因として、虹ヶ咲のアニメのテーマは、それぞれの分かりやすさの差が大きく違うということが挙げられると思います。
何を言っているのか分からないと思うので、もうちょっと掘り下げてみます。
虹ヶ咲のアニメで描かれたのは、ざっくり言うと「9人の話」と「侑の話」です。敢えて追加3人は省いているのですが、それは後述します。
で、その「9人の話」は1話完結なのに対して、「侑の話」は話数を大きく跨ぐんですよね。
この時点で、描写を汲み取るうえでの難易度が圧倒的に変わってくるのですが、この前提を元に、虹ヶ咲の「分かりやすさ」「難しさ」に関わる重要なポイントがあります。
それは、虹ヶ咲のアニメには、作品のテーマを抽象化して読みとくための導線が少ないということです。
1期のオフィシャルBOOKにも96ページの田中仁先生のインタビュー記事に「特別なことを特別な風に言わない」「決めたい盤面でも抑える」(要約)といったように、メンバーの日常を切り取ったような形でストーリーが作られていると言及されています。
これは、「キャラクターを描く」上での解像度をある程度上げてくれる一方、「ストーリー」を読み解く上での恩恵はあまり感じられません。
ストーリーを読み解くなら、特別なことは特別な決め台詞で表現された方がいいんですよね。
特に、他シリーズを追っていると、この導線のなさは「難しい」という印象をより強くするんじゃないかなと思います。
言及が質問箱(22年にサ終)だったため引用はできないんですけど、無印、サンシャイン!!、スーパースター!!の脚本を担当された花田十輝先生は、「決めるべきところは決める」ことを意識されており、テーマに直結するシーンはしっかり特別な描写をする傾向があります。
そういう感じなので、仮に描かれてることがよく分かんなくても、少なくともどこを見ればいいのかは結構分かりやすいんじゃないかなと思います。
一応過去記事で使った図解を貼っておきます。
で、この作り方に慣れていれば慣れているほど、大事なことを決め台詞として描かない虹ヶ咲のアニメはすごく難しく見えるんだと思います。
現代文とかのテキストに例えるなら、他の作品は最初から重要部分に赤線が引いてある上に「序論」「根拠」「結論」ってパート分けされているのに対して、虹ヶ咲って赤線も何も引いてない上に章分けもされてないんですよね。
で、これって9人の話をするなら別に問題ないんです。
キャラクターを知るって意味なら、その子の生きている姿を切り抜いて見せた方が解像度は高くなりますし、そもそも1話完結なので多少繋がりが難しくてもどうにかなります。
問題は侑の話をするときです。
物語の中で侑は大きく成長していきますが、侑にとって「具体的に何を感じたのか」とか、「それがいつだったのか」「どうして感じたのか」は、全26話+αの中に分散している上に、スポットライトを当ててピックアップされているわけでもありません。
これが「虹ヶ咲のアニメよく分かんなかった」って言われる理由なんじゃないかなと思っています。
アニメの描写に赤線を引いていこう
前置きが長くなりました。
このアニメにおいて、「9人について」は分かりやすく描かれている一方、「侑の話」は導線がなく、どの描写がキーになっているのかが読み解きづらく難しいものだと言えることを説明してきました。
さて、今回取り扱うテーマは、後者の「侑の話」に関するものです。
侑が『TOKIMEKI Runners』に辿り着くまでの道のりって、どういうものだったのでしょうか?
なにが鍵になっていて、どういう理由でそうした描写となっていて、1期時点ではなにが足りなかったのでしょうか?
そして、なぜきっかけが『Infinity!Our wings!!』だったのでしょうか?
導線がないからこそ、難しいものだったこうしたこれらのテーマについて、今回は放送から2年が経って増えたヒントを活用しながら、作中のキーとなる描写を繋げていく形で読み解いていきます。
あの時侑に足りなかったものは何だったのか?
高咲侑は諦めがはやい。
まず、そもそも侑がなぜ悩んでいたのかについて言語化してみましょう。
ズルい方法なんですけど、答えが作中にあるからこそ、「その答えが分からない」ことこそが、侑の悩みだったと言えます。
侑の出した答えを要約すると、「自分を目いっぱい伝えようとしているみんなの姿にときめいていた」「みんなと一緒に、今ここにいる私を伝えたい!」となります。
逆に言えば、侑はそれまで、これらの気持ちに気づいていなかったことになります。
もう少し詳しく言うなら、「みんなのことが好き」「みんなの魅力は『自己表現』」「私もみんなみたいになりたい」「みんなと一緒にいたい」という要素に気づいていなかった、もしくは、気づいていても結びついていなかった、と言えます。
では、なぜそれが結びついていなかったのでしょうか?
そこに繋がる導線は見つかりませんでしたが、答えだと考えられるもの自体は描かれています。
高咲侑というキャラクターは、言葉を選ばずにいうなら、少なくともこれ以前は行動力はあっても中身がないキャラクターです。
スクールアイドルに影響されて、何かを始めたいと思って行動に移せるだけの行動力はあれど、意外と具体的なビジョンはありません。
2期3話『Sing! Song! Smile!』では、「自分を表現できる人になりたいから音楽を始めた」と言及していますが、同話では「自分らしさとか無いし……」と悩んでいたことからも、「何を表現したいか」が欠けている人間であることが分かります。
実際、2期前半ではずっとそれをランジュから指摘され続けていたように、この段階での侑は自分の気持ちをよく分かっておらず、それと向き合うことのないまま突っ走って来ていることが分かります。
具体的な描写の話をするなら、侑は困難に突き当たったときすぐに諦める描写が多いです。1期ではスクールアイドルフェスティバルが雨天により大幅に予定が狂った時に、何もせずに沈んでいることしかできませんでした。
2期でも課題ですぐミアに泣きついたり、ずっと弱気な姿勢を見せ続けているように、「絶対にあきらめない」「なんとしてでもやり遂げてみせる」という主人公らしい不屈の精神は感じ取ることができません。
何かをやりたい、何かを成し遂げたいという気持ちばかりが先行して、大切なものを何も背負っていないキャラクター。それが、トキメキに気づく前の侑であったと言えます。
ここをもう少し言語化して見ましょう。
侑の物語の始まりは、せつ菜ちゃんの『CHASE!』を見て、「夢を追いかけてる人を応援できたら」思った事でした。また、なんとなく「自己表現やってみたいな~」と思いつつも、表現することもないまま漠然と音楽を始めています。
このせつ菜ちゃんを見て憧れた「夢を追いかける」ことだけを目標に、「自己表現するものがない」から「何を伝えていいか分からない」という状態が、1期から2期前半の侑だったということができます。
……この構図、よく似ているものを見た記憶がありますね?
歩夢ちゃんは、せつ菜ちゃんを軸にして侑と正反対のキャラクターである
実は、「夢を追いかけたい」「何を伝えていいか分からない」という構図は、1期の11~12話で描かれていた歩夢ちゃんと完全に真逆の構図となっています。
侑のことが大好きな歩夢ちゃんは、「自分の気持ちをあんなにまっすぐ伝えられる」姿に憧れてスクールアイドルを始めました。
しかし、「何かを実現しようと頑張ることで変わって行くこと」を受け止めきれずにいた結果、11話で気持ちを爆発させるに至ってしまったわけです。
12話『花ひらく想い』では、せつ菜ちゃんの「始まったのなら、貫くのみ」で前を向くことができ、その言葉は2期では歩夢ちゃんからせつ菜ちゃんへ返され、そして『Infinity!Our wings!!!』へと繋がっていきました。
ここで歩夢ちゃんが獲得したものは、侑ひとりだけではなくみんなにも気持ちを届けなければならないという、何かを始めてその道を歩くことに伴って生じる「責任」だとか、変化を受け入れながらも、「侑に想いを伝えたい」という「やりたいこと」を貫き通す「勇気」だったりとか、「夢を追いかける」ことに関するものだったということができそうです。
歩夢ちゃんは侑とは逆に、「伝えたい想いはある」けれど、「夢を追いかけたい」という部分が欠けていたんですね。
そして、歩夢ちゃんに「始まったのなら貫くのみ」したのも、『Infinity!Our wings!!』で侑に聴こえてきた歌声も、どちらもせつ菜ちゃんでした。
これらのことから、せつ菜ちゃんは侑と歩夢ちゃんに対して、「自分の気持ちを伝える」ことと「夢を追いかける」ことという二つの影響を与えていることになります。
さて、このようにせつ菜ちゃんを軸に歩夢ちゃんと対比して、2期8話までの侑がどんな感じだったのかを整理してみました。
ここで、注目すべきポイントが1つあります。
スクールアイドルであるせつ菜ちゃんの姿を2つの要素に分け、それぞれの要素のどちらを先に受け取ったかを軸に考えれば、確かに歩夢ちゃんと侑ちゃんは正反対であると言えます。
しかし、せつ菜ちゃんを中心に先ほどの関係性を見た時、1点だけ決定的に侑と歩夢ちゃんで違うポイントがあります。
1話の『CHASE!』は、自分を表現できている曲ではない
というわけで、今回の記事の1つ目の重要部です。
確かに、1話では歩夢ちゃんは「自分を表現できる」姿に、侑は「夢を追いかけてる」姿に憧れを抱きました。
しかし、実際の1話の『CHASE!』は、せつ菜ちゃんが大好きを叫ぶ曲ではなかったはずです。
3話でもけじめのつもりで挑んだと言っていましたし、3rdライブ後のインタビューでも、楠木ともりさんが「あの時の苦しみとか葛藤とかの中にあるせつ菜で歌った」みたいなことを言っていた記憶があります。
せつ菜が「夢を追いかけたい」気持ちのけじめとして歌っていたからこそ、「夢を追いかけたかった」気持ちが侑に刺さっただけで、それは全然「自分を表現した」曲ではなかった、ということができそうです。
だとしたら、『CHASE!』から夢を貰った侑が、「自分を表現する」ことは「自分の好きなものを表現する」ことだという、せつ菜のライブを見て受け取ってそうなことを受け取れていないこと、もしくは、「受け取っているけど気づけていない」ことの説明が付くと考えられます。
加入のきっかけが『DIVE!』だった愛ちゃんや璃奈ちゃんはそのあたりが分かってそうなのも、受け取れていなかった理由が『CHASE!』だったからである根拠となりそうです。
じゃあなんで歩夢ちゃんは『CHASE!』からそれを受け取れたのかなんですけど、これは受け取り手が歩夢ちゃんだったからだと思います。
歩夢ちゃんは侑ちゃんと比較して人の本音が分かるキャラクターであることは、他の媒体等でも取り上げられています。仮に『CHASE!』が「表現している」曲でなかったとしても、歌っている本人がどんな思いでステージに立っているのかといった部分が、侑よりは伝わりやすかったと思います。
そして、歩夢ちゃんはせつ菜ちゃんと同じく、初期は本音を押し殺していたキャラクターです。
今でこそ「あなた」や侑に対して、溢れんばかりの愛情を注いでくるキャラクターとして確立していますが、それは「あなた」や侑が相手の時だけです。
「可愛い姿を侑に見てもらいたい」という歩夢ちゃんの本音は、表に出すのに1話かかりましたし、今年放送のにじよん2では、せつ菜に気持ちを伝えた後照れるシーンがあったりします。(というか憧れてから半年以上経ってる)
「言いたいけど言えない」「伝えるのが怖い」みたいな気持ちでいうと、歩夢ちゃんとせつ菜ちゃんってだいぶ近いものを持っていたことになります。
だからこそ、『CHASE!』のパフォーマンス自体は自分を表現するためのものではなかったとしても、それを歌っているせつ菜ちゃんの気持ちが歩夢ちゃんと近かったことで、それが「夢を追いかけたい」という表面的な部分ではなく、「夢を追いかけたかった」という本音の部分が伝わってくるものだったのだと思います。
話を戻しましょう。
ここまでの話を纏めると、侑が「私のトキメキ」に気づけなかった理由は、「自分の表現」=「好きなものを表現」であることに気づけなかったからであり、その原因は、侑に夢を与えた『CHASE!』が、「自分を表現した」曲ではなかったからであることがわかります。
ということは、8話で侑に必要なものは「自分の表現」=「自分の好きなものを表現」という曲であったということができそうです。
あれ、『Infinity!Our wings!!』ってドンピシャで当てはまるんじゃね?と思った人は多いと思いますが、私もそう思います。
しかし、実態は少し違っています。『Infinity!Our wings!!』どころか、だいたいの虹ヶ咲の曲が当てはまるんですよね。
なんなら、1話前で登場した『EMOTION』とか、この後侑が披露する曲だと言われてもストーリー的には間違いはないレベルだと思います。
ですが、ここでこの役割を果たす曲は、明確に替えが効かないと断言できます。いろいろな角度から考えたのですが、この役割は『Infinity!Our wings!!』以外ありえません。
『Infinity!Our wings!!』でなければならない理由
『Infinity!Our wings!!』は高咲侑のがんばりを前提とした曲である
2期5話『開幕!ドリームランド↑↑(*'▽')』では、ランジュちゃんから侑にこう指摘が飛びました。
「同好会で夢を叶える。」
そう言っていたのに、今のあなたは周りに自分の夢を重ね合わせているだけよ。
あなたはそれで満たされたとしても、何も産み出してないわ。
で、そもそも2期のテーマである、「侑って同好会で『どんな』夢を叶えたいの?」というテーマは、ランジュちゃんから突き付けられたものだったんですよね。
だからこそ、あの時侑に聴こえてきて、そして侑が自分自身の表現したいものが何かに気づくためには、「共感できる」曲ではダメだったわけです。
仮にそれが、「自分の好きを表現した曲」であったとしても、侑にとってそれが「分かる~私の言いたいことマジでこれだわ~」となってしまったら、ランジュちゃんの言っているように、それは自分の夢を他人に重ねているだけです。
しかし、『Infinity!Our wings!!』に関しては、そうではありません。なぜなら、この曲はスクールアイドルフェスティバルのオープニングアクトの曲だからです。
アニメではスクールアイドルフェスティバルは侑が発案した企画で、1期では音楽と並ぶもうひとつの侑の夢の象徴として扱われていました。
2期では、栞子やせつ菜らが中心として描かれていたとはいえ、これが「高咲侑が夢に向かって歩んだ軌跡」であることは疑いようのないことだと思います。
また、そのスクールアイドルフェスティバルも、侑のスクールアイドルが大好きだという気持ちから始まっています。
だから、「スクールアイドルフェスティバルの企画・運営」は、「自分の好きなものを表現」することだと言えます。侑本人はそれにまだ気づいてはいませんが。
また2期では、企画・運営に栞子やせつ菜が中心に描かれたからこそ、スクールアイドルフェスティバルは侑の夢の象徴であると同時に、「みんな」の夢の象徴にもなっています。
必死に困難を乗り越え、そしてなんとか開催に漕ぎつけたストーリーを経て、頑張って何かを成し遂げるというスクールアイドルフェスティバルを通して描かれたテーマは、侑ひとりだけのテーマではなくなっています。
こうしたことから、『Infinity!Our wings!!』は、侑が他人に自分の夢を重ねている曲ではなく、侑自身の夢を背負った曲であるということができます。
『Infinity!Our wings!!』はせつ菜が「自分を表現できた」曲である
これは語り尽くされている事柄なので、詳しい説明は割愛しますが、『Infinity!Our wings!!』は、6話のせつ菜のエピソードの最後に挿入された曲です。
【ラブライブ!シリーズで一番好きな曲】
— のっぴ (@nsopsi29) 2023年10月27日
「Infinity!Our wings!!」
私の大好きな曲について、4枚の画像でその魅力を語ってみました!
よろしくお願いします✨#よんぷれラブライブ pic.twitter.com/VY8rVPtMwN
このエピソードでは、菜々ちゃんがお母さんに、今まで隠してきた自分が好きなものを打ち明けることができました。
また、その過程ではやりたいことを実現する過程で、1人で抱え込むのではなく他人の力を借りることを覚えました。
このように、『Infinity!Our wings!!』は、1話の『CHASE!』と比較して、「大好きを叫べるようになった」せつ菜の歌う曲であると言えます。
言葉を選ばずにいうなら『CHASE!』のシーンのやりなおしでもあるため、侑が『CHASE!』から受け取ることができなかったものを受け取れた理由になると考えられます。
また、この曲のメッセージとして、「やりたい事は全部抱きしめちゃいましょう」といったものがありますが、それも「夢を追いかける」「自分を表現する」の2軸両方を大切にすることとも繋がると思います。
『Infinity!Our wings!!』は夢を重ねることをある程度肯定している
さて、先ほど侑にとって『Infinity!Our wings!!』が夢を重ねる曲ではなく、侑自身の夢を背負った曲であると述べました。
この箇所の侑の物語という軸だけで言えば、これはこれで十分なのですが、もう少し大きな目線で見た時に、すこしだけ問題が残ります。
ランジュに侑が「夢を重ねているだけ」と言われたから、侑からランジュへの解答が「自分自身の夢」であること自体は何も問題ないように見えるのですが、これはある意味で「夢を重ねる行為」を否定することになります。
虹ヶ咲はテーマとして大きく「やりたいことやろう」だとか「大切な人がいるから頑張れる」といったものを掲げていますが、物語がある程度進んだ後には、「答えを今すぐに出す必要はない」というテーマが現れてきます。
で、「夢を重ねる行為」を完全に否定しきってしまうと、このテーマも否定してしまうことになるんですよね。
夢を追いかけている人が近くにいたりとか、何かを頑張っている姿を応援し続けていると、「自分はどうなんだろう」と思ってしまうのは自然な流れだと思います。
ですが、やりたいことなんてそう簡単に見つかるものでもないし、今頑張りたいことが将来に繋がるのかどうかなんて分からないものです。大抵の人には、そんな大層な「夢」なんてものはないんじゃないでしょうか。
それでも、今は目の前にあることを頑張っていれば、いつかはそれが本当に「やりたいこと」に繋がるかもしれないし、そうじゃなかったとしても頑張ってきたことは絶対に無駄にはならないはずです。
ちょっとだけ補足すると、これはラブライブ!的には比較的レベルの高いテーマです。
スクスタだと3rdSeasonの40章『西へ向かえば』41章『「私」の夢』で取り扱われたテーマですが、章の数とここまで約3年かかったことからも、そのテーマのレベルの高さが分かると思います。
他シリーズだと、『幻日のヨハネ』のアニメとかがメインテーマにしてたりしますね。
虹ヶ咲のアニメだと、どの部分だとは断言できませんし、劇場版でやるんじゃないかなとも思うんですけど、今回はそれが「どこで描かれるか」はあまり重要ではありません。
この、「夢がない状態」って、否定しちゃいけないんですよ。
だって、それはアニメを見ている多くの人々だったり、虹ヶ咲を応援している多くの「あなた」を否定することになってしまうからです。
確かに、虹ヶ咲に限らずラブライブ!シリーズから夢を貰った人は、作中のみならず現実世界でもたくさんいます。
彼らが夢をくれたラブライブ!を応援し続けるのではなく、ラブライブ!から離れて自分のやりたいことを実現してくる姿は、ある意味ではランジュちゃんが考えていた姿に近いものでしょう。
侑はたまたま表現したいものが同好会にあったため、結果としてスクールアイドルから離れたわけではありませんでしたが、そこは今はあまり関係ありません。
2期3話『Sing! Song! Smile!』では、侑が音楽科の課題で『NEO SKY, NEO MAP!』を作りました。ランジュがこの曲を評価しているシーンもありましたね。
で、『NEO SKY, NEO MAP!』ってどういう曲かって、「未来のことなんてまだわかんないけど、やりたいことをやっていたらそれが後から意味を持つかもね」って曲だと思うんですよね。
この曲もリリースから4年経ってるので、歌詞の解説は割愛しようと思ったんですけど、流石にハッシュタグを共有してる記事ぐらいは引用しておきます。
私は同好会のみんなに夢をもらった。
音楽をやりたいと思ったのは、みんなみたいに自分を表現できる人になりたかったから。
この世界に私は私しかいない。
上手くできなくてもいい。
私にしかできないことを。
「みんなみたいに自分を表現できる人になりたかった」という気持ちが込められているため、この曲って実は「自分を表現」する曲になってるんですよね。
だから、侑のストーリーラインで見れば、まだランジュへの解答である『TOKIMEKI Runners』に至っていない曲であっても、曲自体は評価されているんだと思います。
そして、「とりあえず目の前のことを頑張る」「やりたいことは見つかっていない」っていう状態で本当の夢を見つけるためには、他の人の夢を背負うのがいちばん頑張りやすいし、そしていちばん素敵な方法なんですよね。
で、これって、虹ヶ咲が「あなた」を通じてずっと描いてきたテーマなんですよね。
虹ヶ咲ってファンに対して「夢見ようよ」とか「なにか頑張ろう!」みたいなメッセージを送ることって、侑以外であんまりやらないんですよね。
むしろ、「あなたに応援してもらいたい」「一緒に夢を叶えて欲しい」といったメッセージを送ることの方が圧倒的に多く、それ媒体や時期を問わずに一貫しています。
だからこそ、仮に侑が「やりたいことを見つけられた」キャラクターであって、「侑のストーリー」ではそれが問題なかったとしても、虹ヶ咲としては、「侑が”正解”である」という描写をするわけにはいかないんですよね。
フラフラ遊びまわって中途半端な侑がランジュからの反感を買って「重ねてるだけで何も産み出してない」と言われたのは事実としても、「いつかは夢が見つかるかも?」ぐらいに考えながら、他人に夢を重ねること自体は別に否定されるべきことではありません。
だから、侑が8話でトキメキに気づくきっかけとなる曲は「他人に重ね合わせていない侑自身のやりたいこと」を歌った曲であると同時に、「他人に重ね合わせること自体は別に悪くないよね」という性質を持っている曲でなければ、作品の本意に反するメッセージ性を産んでしまうことになります。
ある意味で矛盾しているとも取れる2つの性質を併せ持つそんな曲、『Infinity!Our wings!!』ぐらいしかないんですよね。
ここまで6話のせつ菜ちゃんのエピソードばかり取り上げてきましたが、5話のしずくちゃんに関するエピソードも重要です。
しずく「私は自分だけで満足して、結局何も産み出せていないんです」
せつ菜「そんなこと、やってみないと分からないじゃないですか!」
ここの説明この台詞の引用だけでよくない?
「他人を演じる」という性質を持つしずくちゃんが、自分の夢を歩夢ちゃんやせつ菜ちゃんに重ね合わせていたからこそ、いつの間にかその夢の中にしずくちゃん自身が加わり、最終的にはA・ZU・NAが産まれています。
だから、「他人に夢を重ねる」こと自体は悪いことじゃないよっていう要素を、『Infinity!Our wings!!』だったら拾うことができるんですよね。
まとめ
漠然と「なにかを成し遂げたい」と思っていた侑は、2期8話『虹が始まる場所』において、悩めるときに『Infinity!Our wings!!』を聴いたことにより、自分が表現したいものは「スクールアイドルが好きだという気持ち」であることに気づきました。
それは、『Infinity!Our wings!!』が「侑自身の夢である”スクールアイドルフェスティバル”」を背負った曲であり、そして初めて夢を受け取った『CHASE!』では表現しきれなかった「大好きな気持ちを伝える」曲であったからでした。
またこの曲は「他人に夢を重ねる」ことを肯定できる曲でもあるため、これまでの侑の歩みに意味を持たせる曲でもありました。
「これが私のトキメキ」だと気づいた侑は、ただのRunnerではなく、文字通り『TOKIMEKI Runners』となり、みんなに追いつくことができたのでした。
あとがき
『Infinity!Our wings!!』って、ラブライブ!の羽根なんじゃない?
今回のテーマとは直接関係ないんですけど、『Infinity!Our wings!!』のことを考えていたら副次的に気づいたことがちょくちょくあるので、それも書いておきます。
「他人に夢を重ねる」周りの話と直接関係があるかどうかは分からないんですけど、虹ヶ咲の追加キャラって、露骨に「侑に重なる」キャラになっていると思うんですよね。
問題提起役のランジュちゃんも、「同好会のことが大好き」「代表」だったり、栞子ちゃんは「夢を追いかけてる人を応援すること」だったり、ミアちゃんは「音楽」だったりと、侑と共通する要素をアイデンティティとしています。
また、3人とも「諦め」が描かれているキャラクターですが、侑や「あなた」も諦めが早いキャラです。
だからこそ、自然と重なるようにできてんのかな、と思ったりしています。
今回の記事で取り扱ったテーマも、この結論に至った思考ルートは全然違うところから行ってるんですよね。
5thライブの千秋楽の、『Infinity!Our wings!!』→幕間→『EMOTION』→幕間→『TOKIMEKI Runners』→幕間『stars we chase』の流れを見ていて、矢野妃菜喜さんが『TOKIMEKI Runners』のピアノ演奏で間違えたあと再チャレンジして成功させ、その後に内田秀さんがが「諦めるのは終わりにする!」と言いながら出てきたとき、「これ高咲侑の気持ち背負ってるんじゃない!?」って思ったんですよね。
リアタイしていた当時、ミアちゃんの『stars we chase』でランジュちゃんに気持ちが伝わっていなかったのを見て、「これ挿入歌入れる意味あった……?」って思ってたんですけど、ライブで見た時に印象が全然変わったのを覚えています。
幕間で纏めらている部分が、いわば重要部だけ赤線を引いて纏められているのと同じように機能しているんですよね。
だから、あの一連の流れを見た時に、この『stars we chase』って侑の物語の中で必要な楽曲だったんだなって思いました。
侑の答えは『TOKIMEKI Runners』なんですけど、そのこころにあるのは『stars we chase』みたいな「自分の表現がしたい」「みんながそれを受け入れてくれる」「だからもう諦めない」っていう気持ちなんだって気づいて、そこ繋がってるんだ!って。
そう思った時に、頭の中でバラバラだった『EMOTION』とか『Infinity!Our wings!!』とかも芋づる式に繋がったんですよね。
『EMOTION』って、「大好きな気持ちを伝えたい」「伝えることを諦めない」じゃん!!!これ侑に必要なものだ……!!!ってこれ『Infinity!Our wings!!』もそうだって言えるのか……このあたりのエピソードは因果関係で繋がってるし、これってそういう……!?!?って。
そんなこと考えながら見てたら、『stars we chase』のバックスクリーン映像に羽根でてきてほげーーー!!!って。
今頭の中に浮かんでた3曲の共通点なんですよね。羽根って。
ここまで共通点があったらさすがにそういう表現なんじゃないんですかって、そう思ったんですよね。
実際、羽根と言えば自分自身の進むべき道、やりたいことに気づいた時に降ってくるものだってイメージがあるので、この3曲が侑にとっての羽根の役割を担ってるのもしっくりくるなあ、とか思ってました。
思ってたら、アンコール後の『永遠の一瞬』で羽根が舞っててさすがに情緒がおかしくなりました。DAY2でこの曲来るの分かってたのに、この日も無事バケモノが生まれることとなりました。
列挙するとキリがないですが、無印、サンシャイン!!の作中で羽根の演出はメタファーとして頻出していました。
この時期は、羽根がスーパースター!!1期でも登場した直後で、虹ヶ咲って羽根の演出そいえばなかったな…ってちょうど思ってたぐらいだったんですよね。
そんな時期に、スクスタの「あなた」が完成したともいえる超重要エピソードの楽曲で、全体曲で初めて羽根が登場して、ついに来たか……と思ったばかりでした。
そんなときに見たライブで、「あーこれ侑にとっての羽根だったんだ!!!」って思った直後に、「あなた」の飛ばした羽根を見せられているので、さすがにこの瞬間は、「羽根を受け取るってこういうことなんだ……」って思いました。
ちなみに、今1期のアニメ映像を見返したら、『Solitude Rain』で羽根舞っててビビりました。ここも一応繋がるんだ……ってなりましたね。
サンシャイン!!アニメ1期のオフィシャルBOOKでは、酒井監督が「穂乃果が飛ばした夢の羽根を、次の夢をみる人たちが受け取った」という趣旨のコメントをしています。そして、「本当は誰もが主人公だし、スクールアイドルになれる」と明言しています。
サンシャイン!!では、たまたま千歌ちゃんは穂乃果ちゃんに憧れました。しかし、穂乃果ちゃんが飛ばした夢の羽は、「μ’sの夢」ではなく、「スクールアイドルの夢」だったはずです。
千歌ちゃんはその出逢い方から穂乃果ちゃんである必要性がありました。でも、μ’sの「スクールアイドルの夢」って、実際にμ’sへの憧れがなかったとしても受け取れるものなんですよね。
虹ヶ咲のアニメには、μ’sやAqoursは登場しません。でも、虹ヶ咲が「スクールアイドル」である以上、その羽根を受け取ることはできるんじゃないかなって思います。
『Infinity!Our wings!!』では、MVの冒頭では、「世界中に降り注ぐいろんな色の星のかけら」を、3人が拾い集めています。
でも、MVの最後は、拾い集めた星のかけらの光を、また空に放っているんですよね。
「羽根」っていうメタファーを使ってないだけで、表現されてる内容がめっちゃくちゃ「夢を受け取って、新しい夢が産まれて、その夢がまた誰かに届く」っていう、羽根で描かれてきたことに見えるんですよね。タイトルに「wings」って入ってるし。
実際どこまで意識して作られているのかは分からないんですけど、結果としてこう見えるしこう受け取れることが素敵だなと思います。
劇場版楽しみだよね~って話
改めて黒鷺です。
今回、曲の割り振りをしていただく時、自分のことを調整枠に使って貰ったんですよね。記事書くの難しいよ~って曲の方が少ないので、他の人優先してもらいました。とはいえ、希望出してた曲にはなったんですけど。
で、今回、すごく他の曲とか他のエピソードを引用してることからなんとなく察せると思うんですけど、『Awakening Promise』『Infinity!Our wings!!』『EMOTION』『stars we chase』あたりのどれになっても同じ内容書くつもりだったんですよね。
アニメの「侑の話」を軸に、どういう流れで侑が色んなことに気づいていたのかとか、その中でこれらの曲ってどういう役割なの?みたいな。
この侑の話って、虹ヶ咲のアニメの中でも言語化が難しい寄りの要素だと思うんですけど、こういうのを今のうちに読み込んでおくのが、新展開に備えて準備しておくことの中で重要だと思うんですよね。
特に複数シリーズ追ってると、いろんな作品を反復横跳びしている都合上、あんまり使ってない引き出しがサビ付いちゃうことはよくあるので、今の時期に虹ヶ咲の引き出しを出し入れしておけるのって、すごく有意義だなと思います。
今日は『Infinity!Our wings!!』なので、明日は『EMOTION』の記事が読めるらしいです。
……羽根の話が出たので、ちょっとだけこの曲の羽根の話していいですか?
羽根の色が、μ’sや千歌、ミアの時と違って青く染まってるんですよね。
青い羽根と言えば、サンシャイン!!後半の羽根の色がAqoursのグループカラーに染まるのが有名だと思うんですけど、栞子ちゃんとAqoursって、結構共通点多くて。
例えば、スクスタではAqoursは地元の行事に関わることが多いため、イベントの企画運営が得意だと描写されていました。これは虹ヶ咲だと、「あなた」や栞子ちゃんの守備範囲として描かれているポイントです。
また、本記事でも触れましたし、たぶん明日も触れると思うんですけど、加入までの栞子ちゃんやこの時点での侑、栞子ちゃん加入までの「あなた」の弱点は「諦めてしまうこと」でした。
場所を支えたい人で、そして諦めが早い人である栞子ちゃんの曲の中にある羽根が、Aqoursの羽根を思わせる色をしているの、すごくわかるな~ってお話でした。
あとは、栞子ちゃん役の小泉萌香さんがサンシャイン!!のオーディションを受けていたこととかも、要素としては拾えそうですね。
企画記事なのに、他の人の担当曲に出しゃばりすぎたし、バカみたいな文字数を書いてしまい反省しております。
完結編第1章公開まであと11日。
次の担当はてし!さんです。