#てつがくのドンカラス

それでは皆さん元気よく!不意打ち追い討ち?桜内!得意な技は?タイプ不一致!

心の羽よ君へ飛んでけ!

うまくいかなくて泣きそうになる時は

唇噛みつつ願うんだ 「明日は晴れ!」

 

 

 うまくいかないだなんて一言で言っても、頑張ってもどうしようもなかった事だってたくさんあったりする。努力と結果は比例しない。自分一人じゃ太刀打ちできない程大きなこの世界は、いつだって気まぐれで、理不尽で、そして残酷だ。

 あの時、誰一人間違った選択などしていなかったはずで、何一つうまくいかない要素なんてなかったはず。奇跡を掴み取って、勝ち取って、そのまま走り切れば何一つ問題なく物語が進むはず。そんな、うまくいく流れの中だった。「98」という数字を突き付けられたのは。

 

 廃校が決まったあの時、Aqoursに何かが足りなかったのだろうか?小原鞠莉がもっと頑張っていれば廃校は阻止できたのだろうか?もっと強く祈っていればあと2人集まったのだろうか?

 きっとそういう事じゃなくて。どれだけ手を伸ばして、頑張って、足掻いたとしても、ちっぽけな彼女たちの手で変えるにはあの世界は大きすぎる。うまくいかなかったんじゃない。どれだけうまくいっても、いや、最高に上手く行った結果でも、それでも浦ノ星女学院は廃校を免れることはなかったのだろう。

 

 

 

 彼女たちの『心の羽よ君へ飛んでけ!』の歌声を聴いて思い浮かんだのは、アニメ2期7話『残された時間』の『空も心も晴れるから』をバックに描かれたあのシーンだった。

 デュオトリオ2の楽曲たちのように、今のAqoursが自分たちの辿ってきた軌跡を振り返るように、愛おしむように。いわば『空も心も晴れるから』のリメイクのような。

 この楽曲があるから、カウントダウンライブが1期のリメイクだったように、つま恋ライブは2期リメイクをやるのかなとか期待したりもしていた。

 

 本当の意味で世界が表情を変えたあの日。私たちが一番頑張っていたのを知っているあの子も、私たちの見えないところで頑張っていたあの子も、心の整理ができないまま涙を流して。

 日が上った時は真っ青だった空が夕焼けに染まる中。奇跡的なパフォーマンスでライバルを薙ぎ倒し、歓声に包まれた昨日とは気配の違う夕暮れ。

 あの子たちがあの時感じていた想いや、目に映っていた世界は、今この瞬間が1番リアルな痛みとして感じられるんじゃないかなと思う。

 

 この世界にもし神とかいうものがあるのなら、それはきっと諸悪の根源であり憎悪の対象なのだろうなと考えてしまうぐらいには、感情の波が止まらないのだろう。高海千歌小原鞠莉、鞠莉の父親の力不足や、その上層部のせいにするなんて絶対にあり得なくて。誰かのせいにして怒りをぶつけてしまえば楽なのに、そんな逃げ方が出来ないぐらいには、彼女たちはスクールアイドルだった。理不尽だった。理不尽を他人に押し付けてきた。

 自分には何もないとか、そんな事を言っているリーダーが全校の支持を集めて、誰も太刀打ちできないような圧倒的なパフォーマンスで優勝を掻っ攫って。それは彼女が物語の中で獲得したものだなんて、対戦相手からしたら知った事ではない。何もかもを持っている集団が上から理不尽を振りかざしてきた、どう足掻いても覆せないような、そんな絶対的な差を見せつけてきた。勝者が讃えられる横で夢潰えた者たちの絶望は察するに余りある。

 エントリーを取り消したせいで初出場で優勝した先輩と違って、表舞台でそんな絶望を味わい続けた彼女たち。何度も何度もそれを味わいながら、それを押し付けながら走ってきた事は自分自身が1番分かっているから。分かりすぎているから。まるで世界の事を何も知らないかのように、分かりやすい偶像を罵る事だなんてできなくて。やり切れない。やるせない。悔しい。理由もないのに目の前でおもちゃを取り上げられた赤子のように、理解も追いつかずに気持ちも取り残されて、心にぽっかり穴が空いたまま、理解と感情が追いつくのを待つしかない。

 

 

 そんな彼女たちが今ここまでの支持を集めるのはきっと、それでも「私はまだまだ頑張れる」って走り続けてきたから。理不尽で残酷な世界の中で石や泥を投げられても、我武者羅に走り続けて、何もかもを奪い去っていった世界からたったひとつの栄誉を奪い取ってきたから。

 

 そんな彼女たちを見てきたから、「心の羽を休める」っていう優しい表情を聴いて思い浮かんだのが、『残された時間』というとても残酷なシーンなんだろうなと思う。

 

 

 だからこそ、

未来に向けて、歩き出さなきゃいけないから。みんな、笑うのだろう。

 いつかきっと、この曲を彼女たちは私たちと一緒に誇らしげに歌うのだろうと確信している。