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ラブライブ!スーパースター!! 3期4話『No Rain, No Rainbow』 感想 鬼塚夏美って夢を叶えられなくて当たり前じゃない?

 難しい回だったと思います。

 

 なんというか、話の軸自体はすごくすっきりしているとは思うんですけど、それらの描写から鬼塚姉妹の人となりを読み解こうとすると、描写をどれぐらい真に受けていいのかが分からなくなるんですよね。

 どういうことかというと、この回ってギャクパートに結構な時間を使ってるんですよね。牛久の大仏のシーンとか、めっちゃくちゃ唐突にぶっこんできた感もありましたし、そういうのもあって、夏美の過去の描写がどれぐらいギャグとしてデフォルメ化されているのか判断が付きづらいものとなっています。

 

 とはいえ、嘘には少し真実を混ぜるといいみたいなので、そうした嘘みたいな描写の中にも、夏美らしさがあったりするのかなと思います。

 

 

叶うわけなくない……?

 今回の夏美を見て、すごく悲しい気持ちになりました。批判的なアレじゃなくて、なんというか、環境のせいで生まれてしまったどうしようもないバケモノを見ているような、そういう気持ちです。

 

 素人目に見ても、過去の夏美って目標設定が下手なんですよ。

 夢をいっぱい書いてしらみつぶしに挑戦していこう!っていうノートに、「オリンピックに出る」とか「総理大臣になる」とか書いてるんですけど、それらはどう考えても挑戦リストの1項目程度の規模であるべき内容ではありません。

 




 しかも、それらの夢って、本気で目指しているなら少なくとも小学校や中学校程度で挫折して捨ててしまうようなものではないはずです。

 歴代でいちばん若く総理大臣になったのは、初代の伊藤博文で44歳、逆に最年長は鈴木貫太郎の77歳です。また、田中角栄が小卒相当だった(それでも級長相当の成績だったようですが)ように、勉強ができないことと総理大臣になれないことは必ずしもイコールではありません。

 少なくとも、「総理大臣を目指してます」って人が諦めるのって、議員として立候補する段階であって、教育の場ではないんじゃないかなって思うんですよね。

 

 

 なんというか、何十年と掛けて叶えるタイプの目標を乱立させて、それらをまだ目指す段階でもないのに損切りいるように見えるんですよね。

 え、当たり前じゃない?叶うわけなくない?って思いました。

 

 2期の回想描写の時とかも、「徒競走で1位を取る」ことを目標にして失敗していたと思ってたんですよ。だから、夢を見ずに現実に固執するキャラになってたのかなって。

 え、目標設定が「オリンピックに出る」だったの!?って。

 

 

 って考えたら、2期の「はじめての一等賞」に関しても、思い当たるポイントがあります。

 この人、段階を踏めないんですよ。

 

 だって、Liella!って地区予選を1位通過してるんですよ。確かに、大会の1位という目で見たら一等賞って優勝になります。

 でも「徒競走の一等賞」ってオリンピックで優勝しなきゃ取れないわけじゃないって考えると、「1位取った!やった!」って感覚って、必ずしも優勝しないと味わえないものではないと考えられます。

 むしろ、ラブライブ!で優勝するレベルに達さないと、自分を肯定できないって相当じゃない?って思うんですけど、シリーズにそういう子いっぱいいますね……。じゃあ正常なのか……(全員異常者定期)

 

 

 小学生だから、って言われたらそれまでなんですけど、すごく破滅するべくして破滅している気がするんですよね。

 で、「挑戦する姿ってかっこいい」って命題自体は間違ってないから、冬毬が憧れるのもさもありなんという。

 

 

 で、目標設定が下手なだけかなって思ったんですけど、テスト返却の件を見て、もうひとつ思ったことが。

 小学校のカラーテストで失敗することないだろ!!!って。

 

 単に「失敗した」描写の範疇で受け取っていいのか分からなくなるぐらいには、衝撃シーンなんですよね。

 

 のび太が0点取ってるぐらい極端だったら、まだそういう記号的な描写として受け取れるんですけど、そういう点数じゃないじゃないですか。

 努力の仕方が違うとか、目標の立て方が違うとか、そういう次元じゃないんですよ。こういうのをブログに書いていいのかちょっと怪しいんですけど、自分は最初何らかの精神疾患を疑いました。だって、小学校のカラーテストで100点取れないのって、普通の人にとっては「当たり前にできること」ですもん。

 冒頭では毎日遅くまで勉強してこの点数になったと言及されているので、流石にどこかに問題があるんじゃないかなぁと思ってしまうんですよね。

 

 

 

 こんな感じなので、夏美が夢ノートを捨ててマニーを稼ぎ始めたのって、実は夏美の成長過程としては大正解だったのかなって思います。

 というか、客観的に見れば「マニーを稼ぐ」っていう抽象的な目標設定で頑張ることが、たまたま夏美に足りなかった部分を獲得できるものになっていたのかな、と。

 

 これが、「1億円稼ぐ」って目標だったら今までと同じだったと思うんですよ。でも、「マニーを稼ぐ」なら、仮に株で勝ったのが1円だったとしても、それが成功体験になるんですよね。

 「マニーを稼ぐ」ことは、抽象的な目標で、なおかつ、結果が簡単に目に見えるものなので、「成功体験がない」から正しい努力の仕方を知らない上に、「目標設定が下手」な夏美にとってぴったりだったんじゃないかなって思います。

 

 


 また、それを見ていた冬毬が効率厨の合理ロボットになるのが、闇落ち描写的に描かれつつも、それも客観的に見たら強化イベントなのもおもしろポイントです。

 目標設定が下手ですぐに諦める夏美ですが、それを「憧れ」ではなく、「反面教師」として見ればすごく身になるよねっていうのは、ごく自然な流れです。

 2話や3話では「必要だと思ったら練習する」と発言してマルガレーテを怒らせていましたが、これが成立するのも、目標を設定した上で、自分に「できること」と「できないこと」を理解し、それを分析して「必要なこと」を導き出せるからですね。

 妹のレベリングのための反面教師としては、黒澤姉より鬼塚姉の方が経験値多そう。

 

 実際、中学受験には失敗しましたが、マニーを稼ぎ始めた夏美は結ヶ丘の受験には合格しています。これも、なんやかんやマニーを稼ぐ過程で「正しい目標設定」及び「正しい努力」ができるようになっていたからだと考えると、すごくしっくりくるんですよね。

 というか、それを「夏美の強化イベント」だと考えないと、カラーテストで100点取れなかったような子が、結女みたいな都心のそれなりの学校に入れるわけないんですよね。(かのんが入学試験に落ちているので、定員割れしているとは考え難い)

 

 

 とはいえ、今書いたことって、作り手が「カラーテストでこの点数はヤバい」ことを表すシーンとして作っていることを前提とした話になります。

 単純に、「テストでいい成績取れませんでした」以上の意味がないなら、これまでの読み解きを裏付ける物ってあんまりないんですよね。

 

 こういう、最終的にそれが「そう見える」だけなのか「本当にそう」なのか分からないところも含めて、夏美だなぁと思います。

 

 

 

 

 

 

 挑戦する勇気がなかった2期生の他3人が、夢ノートのことを評価していたのも、結構歪だな、と。

 2期生4人のシーンではあるんですけど、視点を変えれば、夏美以外の2期生って全員「挑戦する勇気」が欠けていた人なんですよね。なんなら、きな子とか勇気さえあればあとは全部持ってるヤバい奴だったりする。

 

 だから、勇気だけが欠けてるキャラ3人集めて、勇気だけのキャラクターを褒めるとかいう、美しいシーンに見えて人の心がない心グサグサシーンなんですよね。

 

 ですが、2期生という大きな括り、もっと言うなら「1期生が関与しない」という視点に立てば、この4人にはもうひとつ大切な共通点があります。

 そしてその共通点が、この救いのなさそうなストーリーをちゃんと『No Rain, No Rainbow』にしてくれてるんですよね。

 

 

夢中だから叶うんだ

 

「Song for ALL!!!」

 

 

 挿入歌無いと思ったじゃないですか。違うんですよ。

 『DAISUKI FULL POWER』以外ありえないんですよ。

 

 なんなら、たぶん最後の最後まで「この話救いがない~」って思いながら見ていたら、『DAISUKI FULL POWER』で「あーーーー!そういうことか!」ってなる話だと思うんですよね。

 

 

 夏美の過去のパートで、いろんな夢を見る夏美は描かれてきたんですけど、「なぜそれが夢なの?」っていう部分が全く描かれていないんです。

 もっと言うなら、マニーを稼ぐモチベーションになるものは夏美がはっきり口にしているんですよね。

それならいっそ、お金でも貯めて困らないように生きていこう!

お金なら裏切らない!

そう、これからはマニーが命ですの!

 

そう、大切なのは夢なんかより現実!

マニーですの!

 

 

 今回のエピソードで、本編中では今まで諦めてきた夢とスクールアイドルという夢について、言及されたのはシーンにしてたった2回だけでした。

 もしかしたら、それだけだったら見落としてしまう程度の描写、言及だったかもしれません。今回のエピソードの核だとは思えなかったかもしれません。

 

 ですが、エンディングの『DAISUKI FULL POWER』に繋がることで、それらのシーンの重要部が全然変わってくるんですよ。

 

決勝のステージの上で、私は最高に感動したの。

 

 

もう一度、あそこで歌いたい。

今度は自分が中心になって、いつかかのん先輩たちが卒業した後も、頼られる存在になりたいって。

私だけではありませんの。きな子、メイ、四季……2年生の想いはみんな同じなんですの。


それが今の私の夢なんですの!

 

落ち込む時や傷付く時があったとしても、スクールアイドルに出会えて、初めてわかったの。

本当に楽しいって思える笑顔。

 

 

マニーよりも、もっともっと素敵な、最高の笑顔になれる日がくると信じているの。

だからこれからも、私を見ていてほしい!

 

涙を流したここからもう一度!

最高の笑顔を目指しますの!

雨のあとの、あの虹のように!!

 

 ステージの「上で」感動したっていうこととか、笑顔になる理由に「楽しい」を挙げているのが大事だと思うんですよね。

 

 夏美って、スクールアイドル好きなんですよ。加入回でセンターで歌った後溶けていたみたいに、この人スクールアイドルやるのが楽しくて仕方ないんですよね。

 

 何らかの努力をしてきた人だったら分かると思うんですけど、どの分野でも結局一番強いのって、血反吐吐きながら頑張ってきた人より好きでやってきた人間です。

 きな子役の鈴原希実さんが、ラジオで「自分は陰キャだったから友達がいなさ過ぎて夏休みは宿題やってた」「勉強してると友達がいない自分が惨めじゃなくなる」って話をしていて、「だから成績は学年1位だった」し、「コツコツ努力することが全然苦痛じゃない」みたいなことを言っていました。

 勉強が好きじゃなくて、「やりたくないよ~」って言いながらやってる人が、「私勉強したいです!」って感じで勉強してる人に勝てるわけないんですよね。

 

 こんな感じで、何かを成し遂げるのに必要なのって、結局はそれを「やる」ことに向かわせるポジティブな気持ち、つまり「DAISUKI」なんですよね。

 

 このへん、本当に『DAISUKI FULL POWER』の歌詞引用して「これでわかるでょ?」って終わらせたいですね。

 

 

 しかも、このエンディングの『DAISUKI FULL POWER』に全部繋げる流れも、2期生らしくて綺麗だなって思います。

 自分が2期生の好きなところが、言葉ではなく歌に託すことができるところなんですけど、それがスクールアイドルらしくて、表現としてすごく綺麗なんですよね。

 

 夏美がスクールアイドルをやる理由として、最後に「大好きだから」っていうのを持ってきた訳なんですけど、これを歌だけに託したことで、それそのものが「スクールアイドルって素敵だよね」っていう気持ちを裏付けるものでありながら、彼女たちがスクールアイドルとしてある程度実力を付けている証になっているからです。

 

 1期生って、かのんが中心になっていることもあって、「言葉で伝える」といった色が強く、1期は特にそうした表現が多かったと思うんですけど、2期生、及び2期は語らずして表現するシーンが多く見受けられます。

 『勝利のために』で、すみれを激励しようとして言葉ではなく歌声を届けたことも、彼女たちの強みが出ているシーンだと思います。

 

 

 個人的には、そうした「伝えるために歌う」という「スクールアイドルらしさ」では2期生は既に1期生を越えていると思いますし、そこが好きなポイントでもあります。

 そうした彼女たちの強みが、冬毬に「スクールアイドルをやるんだ」と訴えて、そして、「大好きな笑顔を見せ続ける」証として機能していたのが、すごく好きなポイントです。

 

 

 

 そして、もうひとつ好きなポイントが、託した曲がエンディングテーマであることによって、読み取りの幅を大きく残していることです。

 

 

 オープニングの『Let's be ONE』が

ただ胸が高鳴って
ただ追いかけてるんだ
何かのためじゃない
ただ大好きだから
夢みるんだ

 

 って歌っているのもあって、この回のテーマが「スクールアイドルをやるのは大好きだからだ!」「だからずっと笑ってるから見てて」っていうのは間違いないんですけど、明確にこの曲を歌いましたという描写にしなかったことで、読み取りの幅がかなり広くなっているんですね。

 

 たとえば、「本当は持っているけど気づいていない」「気づいているけど言葉にできてはいない」っていう読み方も許容されているんですね。

 

 生き方とかって、言葉でバン!って言われて衝撃を受ける物じゃなくて、ぼんやりと少しずつ形作られていくものだと思うんです。

 

 だから、典型的な夢を叶えられない人だった夏美が今改めて夢を見る理由を問い直したとき、それが答えとしてどのぐらいくっきりと出たかどうかは曖昧ままにしながらも、作品としての答えはしっかりと残していく感じが、すごく素敵な表現だなって思います。

 

 余談ですが、『No Rain, No Rainbow』っていう言葉自体にそういう意味はないんですけど、シリーズで追っていると、この言葉って「虹が架かったことでやっと雨に意味があったことに気づけた」みたいなニュアンスのような気がしてしまうんですよね。

 

大切な気持ちって自分じゃ分かんないね
君から言われて
また「ああ、そうだった」って気づくんだ

 

 って感じで、気持ちとしては持っていても、気づくまでに時間がかかるもの、そして、それに”気づく”ってことが大事なものっていう。

 

 

 

 

 

 やっぱり、自分にとって「2期生」の一番好きなところって、こうやって作品にスクールアイドルとしての深みを持たせてくれるところなんですよね。