#てつがくのドンカラス

それでは皆さん元気よく!不意打ち追い討ち?桜内!得意な技は?タイプ不一致!

キセキヒカレ

 部屋の窓から外を眺めると、綺麗な海が目に飛び込んでくる。いつ見ても同じ海なはずなのに、見るたびに違う事を思うのは、きっと迷惑なお隣さんのせいだろう。かつてあそこに飛び込んで聴きたいと思った音は、今では完全に自分のものになっていて。なんだか、不思議。

 

 曲を作りたいと思った。いや、聴きたいという方が正確だと思う。あの日、みんなで星空を駆けた夜、ふと聴こえた気がしたの。私たちに、Aqoursにずっと寄り添っていた音が。優しく耳を撫でる旋律は、不思議と始めての感覚はしなかった。私はこの音をたぶん知っていると思う。今までは気づかなかったけど、ずっと聴こえていたはずの音を、自分のものにしてみたい。そう思って早起きした私は、ノートとペンを持って家を出る。音のカケラを拾い集めるために。

 

 

 まずやってきたのは学校。いつもと違って感覚を研ぎ澄ましているからか、不思議と思い出がフラッシュバックする。もしかしたら、私にとってこの場所はいつもの場所じゃないのかもしれない。一年も通っていないこの学校で、一年とは思えないぐらいたくさん色んなことがあって、それを日常なんて言葉で言い表すのって、なんだか可笑しな気分だなって。

 学校の中をふらふらしながら、音のカケラを探してみる。まだあちこちに残る閉校祭の飾りにちょっぴり寂しさを感じる自分が、未だに数日前の余韻に浸っていることに気づく。ずっとこのままだったらいいのにってみんな言っていたけど、その眼差しは貪欲に明日を見据えていて。今この瞬間を心に焼き付けながらも、みんなみんな旅立つ覚悟を固めているんだなあって。あの日感じたことを思い出して、未だ余韻に浸りながら、前に聴こえた音を探そうとしてる自分に対して、ちょっぴり呆れてみる。

 私たちを支えてきた人の笑顔や笑い声。ここにあの音はあったのかな?辿り着いた屋上で思い出したのは、迷い狼狽える私たちを導いたみんなの声。私たちが歌う意味を、目指すべき場所をくれたあの時。思えば、私たちはいつも支えられてきた。辛い時、悲しい時、悔しい時、いつだって私たちには帰る場所があって。私がこの学校に来てからまだ1年も経っていないけど、私の周りの世界はどんどん変化していって、それでも、ここだけはずっと同じ景色だった。不思議。永遠に変わらないものは無いって分かってて、いつかは終わりが来てしまうって知っていて……この学校ももうすぐ閉校するんだって分かってるのに、ここに来るとホッとするんだ。いつも当たり前のようにそこにあって、当たり前のように過ぎていく毎日。過ぎていく日々の中には何故か安心感があって、かげがえのないものだって分かってるのに、特別なものだって事がどこかピンと来なくて。

 特別な時間は必ず終わりがやってくる。3年生の3人は卒業したら遠くへ行ってしまうし、私自身も、ずっと内浦で暮らす事はないと思う。いつか、私はこの場所を旅立つ事になるだろう。もしかしたら、それは凄く長い別れになるかもしれないし、そのまま二度とここに帰ってくる事はないのかもしれない。千歌ちゃんや曜ちゃんも新しい環境で新しい生活の中で新しい友達が出来て、毎晩ベランダで千歌ちゃんと語り合ってたのも、いつのまにか、そうしない毎日を寂しく思う事もなくなって。私がいない内浦が、いつかは当たり前の日常になるのかもしれない。

 それでも、いつか私がここにまた訪れる時、私は帰ってきたって感じるだろうし、みんなも暖かく迎え入れてくれると思う。例え何十年、何百年何千年と時を越えたとしても、きっと私たちは、「ただいま」と「おかえり」で語りあうのだろう。

 屋上からまたふらふらと歩いて、やってきたのは体育館。私たちの初めてのライブで、『ダイスキだったらダイジョウブ!』って歌ったのを思い出す。あの場に一緒に立っていた千歌ちゃんや曜ちゃんは、この学校やこの場所が大好きだったけど、あの時の私はまだ自分が何が好きだったのか迷っていたから、その答えを探したくてそこに立っていて。「失礼だよ……本気でやろうとしている高海さんに、そんな気持ちで……」なんて、そんな事を言った時もあったっけ。

 大好きな場所で見つけたのは、優しくて、儚くて、それでも消える事のない音。

 

 学校を出た私は、ふと聴いたことのある声を耳にする。無邪気にはしゃぐ幼子と、それを見守る母。そしてその傍にいる者は、かつて私の傍にいた存在だった。夜想曲、と名付けたのが懐かしい。

 此方に気づいた彼女たちに軽く挨拶をしながら、ふと気づいたのが、この2人、私の事を犬を拾ってくれた人としか思ってないみたい。最近は「Aqours桜内梨子さん」「梨子ちゃん」って呼ばれる事ばかりだったけど、そういえば自分はここに住む名もなき住人の1人でもあるんだなって思った。実際、ステージに立っている時私たちは、私たちを見上げる人たち一人一人の事を知ってるわけじゃなくて。私の名前を呼ぶ人全員を名前で呼び返すことなんてできなくて。私を応援してくれる誰かは、私にとっては、私を応援してくれる人の中の1人でしかなくて。私たちから見たμ'sは特別な存在だけど、μ'sからすると私たちは名前のないただのファンなのだろう。

 だから、特別な輝きが欲しいって思ったんだ。だから、名前を残したいって思ったんだ。でも、あの日……絶対に間に合わないと思ったのに、初めての奇跡が起きた日、千歌ちゃんが語ったのは、自分を特別だと思える人なんていないって事。そして、別の日に堕天使はこう言ったんだ。自分は本当は特別じゃないって分かってて、それでも特別を名乗り続けるんだって。それは、自分の不幸である事へのせめてもの抵抗ではあるけれど。

 みんな自分が特別じゃないから、ずっとずっと苦しんできたんだ。あの時、自分がもう少し強ければ何か変わったかも知れないって、そう言う涙を何度も見てきた。前に鞠莉さんと作曲の話をしていた時に、彼女の手が腫れていたのが強烈に印象に残っている。一見何でも出来る曜ちゃんだって、普通の特別な人の特別になりたくて、でも、その普通な人にとっての曜ちゃんは特別だから、ずっとすれ違い続けていたのだろう。

 みんな自分の事を特別だなんて思ってなくて、それでも自分に特別な何かが欲しいと思っていて。だから、中にはそれを分かって特別を名乗り続ける人もいて。でも、私にとってみんなは私の中の何かを変えてくれた特別な存在なんだ。だから私は、あの時から全てに意味があるんだって、そう思うことにした。自分に何もなくて普通だって思っている人でも、そこにいる意味があって、それがその人の中に潜む特別な何かなのだろう。そうやって、自分の大切なもの全てを繋ぎ合わせた時、私はたぶん特別だって言えるのかなって思う。

 あの日見た天の川の、そこにある星ひとつひとつの名前を私は知らないけど、いつかそのひとつひとつの繋がりに特別な意味があると知る事が出来たらいいな。誰かにとって今はまだ名もない私でも、私にとってまだ名もない誰かも、もしも出逢った時にそれが特別なものになると素敵。

 偶然の出逢いの中に、人と人とを繋ぐ不思議な音を聴いた気がした。

 

 みんな普通で、でも私にとって特別なこの町、私の町。その日は一日中、大好きな街をふらふらしていた。体全体で感じる風の優しさ、海の暖かさ、落ち着いた雰囲気をいつまでも味わっていたいなって思った。

 

 その夜、集めた音のカケラをピアノの上で形にしてみる。ひとつひとつの音はとても綺麗だけど、まだなんだか物足りない気がした。たしかにあの日聞こえたはずの音だとは思うんだけど、でも、まだ足りないの。

 まあ、そんな簡単に曲ができたら苦労しないわよねって苦笑いしながら、私はカーテンを開いてみる。思った通り、窓越しにお隣さんがこちらに向かって手を振っている。手には何やらスマホを持っているようで……

せいらさーん!今のが梨子ちゃんのピアノだよ〜」

 やめてよ恥ずかしい。そういえば、Saint Snowの曲は聖良さんが書いてるんだっけ。私のピアノを聴いて、彼女も何か思う事はあるのだろうか。彼女が曲も歌詞も一身に背負い、一気にラブライブを駆け上がった天才であると思い出し、少し緊張する。

 電話をしながら離れた私と会話をするというのは物理的に厳しいものがあって、だからといってこんな遅い時間にスピーカーで音を流すわけにも行かなくて、千歌ちゃんは聖良さんとの通話を切り上げるようだ。少し申し訳ないかなと思いつつも、なんとなく聖良さんに対する優越感も感じる。聖良さんも誰かに嫉妬したりするのかな?

 他の人に聞かれたら本気で引かれそうな事をついつい考えながら、窓枠に寄り添ってみる。毎日のようにこうして語り合う事の特別さが改めて身に染みて、なんだか少し遠い所からこちらを見つめる彼女を抱きしめたくなる。

「千歌ちゃんってさ、歌詞を書く時、どこからスタートしてるの?私や曜ちゃんみたいに、貰った物に合わせて作ってる訳じゃないでしょう?」

 素朴な疑問。私もAqoursに入るまでに書いた曲は、ゼロから作っていたんだけど、自分でいい曲だって思えるのは、そんなに無かったと思う。だから、何かヒントにならないかなって、そう思った。千歌ちゃんは、たぶん何か答えを持ってる気がした。だって、千歌ちゃんは、ゼロをイチにできる人で、何もないところから何かを産み出せる人なんだって、そう思ってたから。

「私ね、たぶん、ゼロから作り上げてる訳じゃないと思うんだ。私が肌で感じたみんなの想いや熱い気持ちをなんとか形にしたいって思ってて。みんなだけじゃない。自分の中で抱えている想いだって、ちゃんと形にしたいし、伝えたい。たぶん、梨子ちゃんの方がそういうの得意だと思う。だって、海の音を聴いた時だって、そして今もずっと……。」

 誰かの形のない想いを、形のない物で表現する梨子ちゃんや曜ちゃんはすごいなあって呟く千歌ちゃん。私不器用だから言葉にしないと伝えられないよって、笑いながら洩らす彼女が、なんとなく愛おしかった。

 

 千歌ちゃんと2人の時間を終えて、ベッドに入った私に、一通の着信が。送り主は……鹿角聖良。

「曲作り、手こずってますよね。」

 単刀直入に聞かれてドキッとした。天才はここまで分かるのかと呆れると共に、格の違いを見せられた気もした。

「聴こえていた気がする音、ですか……。」

 電話の向こうで黙り込む聖良さん。確かに、私の言っている事は、突拍子も無い事だろう。

「私、そういうの少し羨ましく思います。」

 聖良さんは語る。自分の曲は、基本的に自らの衝動や感情を現すもので、パフォーマンスを彩るための存在なんだって。だから、自分には作り上げることしか出来なくて、自分を見せる事しか出来なくて、何か自分以外の物を表現するのは苦手なのだとか。

 だから、自分たちは孤高に見えただろうって思ったし、初めて見た時、自分ではなく自分たちを育てた景色を歌う私たちに違和感を覚えたって。でも、Aqoursはその景色をちゃんと力にして急速に成長してきて、その時聖良さんも悩み始めたらしい。本当に、ステージの上で見せるのは自分たちだけでいいのかって。だから、Aqoursにステージに誘われた時、なんとなく自由になった気がしたって。ステージの上にいるのが自分たちだけだなんて決まりはない。10人目でも11人目でも……100人でも200人でもそこに立つ資格はあるんだって、そう思えたんだって。

「私は不器用だから、どうしても自分の歌しか歌えないけれど、梨子さんみたいに、自分の好きなもの、大切なもの、自分と繋がっているものそれ自体を作品に出来るのって、羨ましいなって思います。尊敬しています。」

 昔私がピアノが弾けなかった時。周りに期待されて、高いレベルの場所に行って怯えていた時。そこには普通じゃない天才がたくさんいて、天才じゃない私には場違いなように思われたけれど。もう私は天才と肩を並べる事に躊躇う事はないだろうし、天才の言葉に僻みを感じる事はないだろう。今の自分には、聖良さんの言葉が素直に受け取れていると思う。

 

 それでも、まだ音が掴めないまま時は過ぎていって。閉校祭が終わって、ラブライブの決勝までは数字で見る以上に短く感じて。練習に明け暮れ、作曲は進まないまま、気がついたら決戦の地へ向かう朝。別にぼんやりと過ごしていた訳じゃなくて、忙しくて忙しくて、でもその一瞬全てが大事な瞬間だから、他の事が出来ないぐらい必死に過ごしてたと思う。

 何となく早起きした私は、ふと砂浜に向かう。そのままじゃぶじゃぶと海に入っていく。裸足の裏に感じる砂の感触がなんだか心地よくて、ついはしゃぎたくなる。思えば、この海はいつも私たちの挑戦の側にいた。私にスクールアイドルの道を示した時、私たちに内浦の良さを教えてくれた時、死ぬほど悔しくて、悔しくて、涙を流しながら戦い続けると誓った時。一度は光を掴みかけたと思ったあの時。限界を超えて、私たちの普通を乗り越えたあの瞬間も、全部全部この海は見守ってくれていて。ゼロを1にすると誓ったあの時も、未来をひっくり返したあの時も、場所は違うけれど、キセキを起こすと叫んだあの時もキセキを信じて走り抜けたあの時も、私たちは太陽を見上げていた。何度も折れそうになって、何度も涙を流したけれど、流れた涙は全部この海が受け止めてくれたし、残った涙も日差しが乾かしてくれた。だから私たちは前を向いて、何度も挑み続ける事が出来たんだと思う。

 しばらく何もしないで、朝日の登る海を見つめていると、後ろからじゃぶじゃぶ音が聞こえて、隣に鞠莉さんがやってくる。言葉を交わすこともなく、ただ並んで朝日を見上げていると、次第に3人目、4人目と集まってくる。不意に鞠莉さんが私の手を握る。その手はとても綺麗で、その肌のきめ細やかさに少しドキっとした。もう片方の手で千歌ちゃんの手を取ると、握り返す彼女のパワーが思っていたよりも凄まじいもので、私の華奢な手なんて簡単に握り潰せてしまいそうで。

「千歌ちゃん、痛い。」

「あはは、ごめん。」

「ばか。」

 いつもと変わらないくだらないやり取りに、思わずみんなから笑いが溢れる。

 水平線の向こうから昇る太陽は、ちょうどここから見える学校の後ろにあって、輝きがまるでそこにあるかのように見える。もし今から学校に行ったら、太陽がそこに鎮座しているような気がする。私たちはただただその風景を、手を繋いでずっと見ていた。

「さあ、行こうか。」

 しばらくして千歌ちゃんが言うと、かなりの時間こうしていたことに気づく。このまま気づかなければ、明日も明後日もこうしていそうだった。

 行ってきますって、そっと呟いた。足元に感じるさざなみの鼓動は、私たちが何度も挑み続けてきた事を噛み締めさせるようでも、優しく背中を押してくれているようでもあって、やっぱり気持ちよかった。

 寄せては返す波の音は、私たちを見守る海だけじゃなくて、私たちの心の奥底からも聴こえている気がした。

 

 海から出て、電車に乗って、東京の街についた私たちは、さあこれから私たちだけで戦って、そして待ってるみんなの所に笑顔で帰るんだって思ってた。でも、神田には私たちの勝利を願う人がたくさんいて、Saint Snowの2人も応援に駆けつけてくれて。秋葉の街の至る所で私たちの名前を見た。呼び止められた事も、一度や二度じゃない。内浦からも、たくさんの人が来てくれて。前に来た時は、みんな敵地に乗り込むぐらいの気持ちだったのに、今は至る所に私たちの味方がいる。空って一つしかないんだなぁって思った。だって、繋がっていれば、みんなこうやって集まってくる事ができる。別々の場所にいても、そんなの関係ない。広い空の下では、東京と内浦、函館だって、本当にあって無いような距離なのだろう。

 だから、私はなんとなく、次のカケラがどこにあるのか分かった気がした。向かった先は、音楽で有名で、憧れのスクールアイドルの母校で、私がかつて通っていた場所。音ノ木坂女学院。

 音ノ木のピアノの椅子に腰掛けると、浦の星のそれとは違う感触がお尻を包む。この感触を懐かしいと感じないのは、きっと浦の星に慣れすぎたせいだろう。本来は私は東京に帰ってきた人間なのに、帰るという言葉がしっくりこないぐらい、私は内浦の人間になってしまっているのだと思う。

 ここに来たのは、過去の自分に逢いたかったから。ピアノが弾けなくて、悩んで迷っていた1年前の自分に、私はちゃんと今はピアノが弾けるんだって言いに来たの。

 ずっとずっと悩んでいて、曜ちゃんや千歌ちゃんに弱音を吐いた事もあったけど、それでも、そうやって歩いて来た事が、ちゃんと今に繋がってるんだって思いたいから。

 出逢いの意味が、出逢った意味が、歩んできた道が、そして、そこにいる全ての人と私が繋がるように。ねえ、聴こえていますか。最後のカケラは、ずっとすぐそばに。全部集めたから、迎えにきたの。わたしと、今まで出逢ったみんなと、これから出逢うみんなと、今一緒にいるみんなの

 

想いよひとつになれ

 

 最後の鍵盤から手を離した時、私の中に確かな力が芽生えたのを感じながら、1つの決意を固めていた。

 

 なんとなく、曜ちゃんと千歌ちゃんはそこにいるんじゃないかと思った。前に千歌ちゃんが言ってたんだ。ここで自分はμ'sと出逢ったんだって。ここが、はじまりのひとつなんだって。

 伝えておきたかった。飾る事ない私の想いを。嘘偽りない本心を。

 私の想いを見透かしたかのように、千歌ちゃんは、問いかける。

「梨子ちゃんは、勝ちたい?」

 自分の右手が震えるのを感じながら、首を縦に振る。飾らない本心を口にするという事は、たとえ覚悟が出来ていたとしても、身体は震えるものなのだろう。全身が熱くなるのを感じる。それでも、言葉を出すんだ。

 ふと、私の知らない想いが繋がった気がする。それは、私にとてもよく似ているけど、私より不器用で、それでいて、私よりはるかに強いんだろうなって思った。同時にスッと震えが止まる。言葉が口から次々に溢れ出す。きっと私の知らない場所で、それはきっと遠い遠い場所で、私を助けてくれる誰かの想いなのかもしれない。

 だから、もっともっと……全部繋げておきたかった。私たちの始まりと、私たちの出逢いを。

 「わたし、自分が選んだ道が間違ってなかったんだって、心の底から思えた。」

 私ってこんな声出せたんだ、こんな言葉が話せたんだって驚きながら、どんどん言葉が溢れてくる。

 肯定しておきたかった。あの日の貴方の言葉を。貴方が信じた奇跡を。

「辛くてピアノから逃げた私を救ってくれた千歌ちゃんたちとの出逢いこそが奇跡だったんだって。」

 だから、答えるんだ。貴方の想いに、そして私の想いに、全力で。叫ぶんだ。私自身の中で反響するように、遠くへ遠くへ届くように。

 

「勝ちたい。

  ラブライブで勝ちたい。

 

  この道でよかったんだって証明したい。

 

  今を精一杯全力で、心から。

 

  スクールアイドルをやりたい!!!」

 

 言えた。

 気がついたら私は、2人を抱きしめていた。本当に、私らしいのか私らしくないのか分からないけど、二人とも不思議と驚く事もなく、優しく私を包み込んでくれる。あぁ、みんなに逢えて、Aqoursに逢えて、曜ちゃんに逢えて、千歌ちゃんに逢えて……本当に……大好き。

 

「千歌ちゃんは?勝ちたい?」

 抱擁を解いた私は、曜ちゃんに合わせて尋ねてみる。答えは決まってた。

「0を1にして一歩一歩進んできて、そのままでいいんだよね。

普通で……怪獣で……今があるんだよね」

「勝ちたい!

 

  勝って輝きを見つけて見せる!」

 彼女の叫びは、願望なんかじゃない。私には、確かに勝利宣言に聞こえた。

 0票だったあの時の結果を、千歌ちゃんは空に解き放つ。その紙は役割を終えて天に帰っていくようで、ひらひら空を舞って、どんどん遠くへ消えていって……。

 

 始まりのゼロ、悔しさのゼロを見送った私たちは走りだす。もう、やり残した事なんてない。視線の先にある決戦の場所。大きくて、大きくて、でも、不安なんてない。しっかりと見据えたその先に、もう未来が見えている気がする。

 その時、私の耳に、確かな旋律が飛び込んでくる。優しく微かな音だけど、でも、聴いたことがあるんだ。ずっと探していたんだ。

 周りを見渡せば、私たちを支えてくれる人達がたくさん見えてくる。気がついたら、後ろから一年生の3人が駆けてくる。

 音が少しずつ、はっきりとしていく。走っていて感じるんだ。みんなみんなおんなじ明日を見てるんだって。ひとりひとりが持ってる音が、ただ一つの未来を目指して、集まっていく。それはバラバラなんかじゃなくて、ひとつひとつの音が繋がって、ひとつのメロディーを刻んでいく。

 道の反対側に、三年生の3人が見える。向かう先の歩道橋は、大きなドームと同じ目線に立てるぐらい高かった。ジャンプしたら飛び越せるかもしれない。

 だんだん強くなっていく音は、何度も何度も繰り返す。それは波のようで、でも、寄せては返すたびに、その音は強くなっていって。

 確かに聴こえていたんだ。キセキを起こすと誓ったあの時も、キセキを信じて走り抜けたあの時も、みんなに支えられたあの時も……あの時も……あの時も……ずっと。

 鳴り響く力強い旋律は、私の中に芽生えた力をどんどん大きくしていく。見上げた太陽だって、手を伸ばせば届く気がする。世界中の力が、私の中に、私たちの中に降り注いでいく。きっと、その力は私たちをどこまでだって連れていってくれる。どこでだって繋がってる。

 

どのぐらい走ったのかな。

 

どこまで来たのかな。どこまで続くのかな。

 

分からないけど、あの時と今思ってる事が全てあって、ここに辿り着けたんだと思う。

 

雲の上だって、空を飛んでるみたいだって、

 

思いっきり楽しもう。弾けよう。

 

そして……優勝しよう!!!

 

私たちの輝きと証を見つけに!

 

 

 

さあ、行くよ!

 

1!

 

2!

 

3!

 

4!

 

5!

 

6!

 

7!

 

8!

 

9!

 

 

ゼロからイチへ!

 

イチからその先へ!

 

Aqours……

 

サ〜ン……シャイ〜〜〜〜〜〜ン!!!!